2020 Fiscal Year Annual Research Report
ナノ粒子抗がん剤の作用機序解析のための新奇材料開発
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19J01971
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山本 翔太 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 上皮成長因子担持ナノ粒子 / アポトーシス / シグナル伝達 / 抗がん剤 / がん細胞 / バイオ分析 / メカノバイオロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
通常、上皮成長因子(EGF)は細胞の“生存”を促進するが、EGFのナノ粒子への固定化は部分的にEGF受容体の活性化を増強し、EGFの効果を突如“死”に切り替える。そのため、このようなEGFナノ粒子は新たな抗がん剤として期待されているが、その作用機序は未だ不明瞭である。そこで本研究では、EGF担持ナノ粒子が獲得する特異なアポトーシス誘導活性のメカニズムを探究する。 始めに、特異なアポトーシス誘導活性のメカニズムを調べるため、15 nmの金ナノ粒子にポリエチレングリコール(PEG、分子量5000)とEGFを共固定したナノ粒子を調製した。この際、EGFの反応量を調節することで表面固定化密度が異なる粒子を得た。この粒子を用いて、表面特性の変化に伴う上皮成長因子受容体(EGFR)の活性化パターンをリン酸化アレイによって調べた。すると、EGFナノ粒子およびコントロールとして使用した液性EGF共にEGFR-Y845が特に活性化されていることが分かり、そのリン酸化レベルは、 液性EGF処理細胞では高く、EGF-GNPsでは低かった。Y845は細胞成長に関わるSrcのシグナル伝達に関与しているため、その下流に位置するAktの活性を調べたところ、EGFナノ粒子によって活性化されたAktレベルは、液性EGFの半分に留まり、粒子表面のEGF固定化量を変えた場合でも変化しなかった。そのためこの特異な応答は、EGFが粒子に固定化されていることが重要であると示している。さらに、正常細胞とがん細胞にEGFナノ粒子を投与し、アポトーシス活性を調べたところ、EGFR過剰発現がん細胞にのみ効能を発揮することが分かった。驚くべきことに、EGFRが多く発現している正常細胞にはアポトーシス活性を示さなかった。以上のように、本年度はEGFナノ粒子の抗がん剤としての高い可能性を示すことに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度、研究代表者は研究課題を遂行するために必要な分子生物学を学ぶため、2020年7月より研究機関を変更した。今年度は、がん細胞の細胞死(アポトーシス)を誘導する上皮成長因子担持ナノ粒子を新たな抗がん剤として使用するために、その作用機序について検討した。まず始めに、上皮成長因子担持ナノ粒子によって活性化が誘導される細胞膜表面に存在する上皮成長因子受容体(EGFR)の種類を検討したところ、細胞成長を制御するEGFR-Y845と呼ばれる受容体が特に活性化されていることが分かった。さらに、アポトーシスを誘導する上皮成長因子担持ナノ粒子では、EGFR-Y845のリン酸化レベルは細胞成長を誘導する液性の上皮成長因子で刺激された場合の半分程度に収まり、続く細胞成長に関与する下流のシグナル伝達も通常とは異なる活性化パターンを示すことを明らかにした。またEGFRの発現量が異なる細胞種を用いてナノ粒子の効能を調べると、EGFRが過剰に発現しているがん細胞にのみアポトーシス活性を示すことも明らかとなった。これはEGFRががん細胞に過剰発現するという性質を考慮すると、がん細胞選択的に効果を示すナノ粒子抗がん剤として利用できる可能性を強く示した。 以上のように、2020年度はナノ粒子が獲得するアポトーシス誘導活性のメカニズムの探究および医療応用に対する検討を行った。さらに、ゲノム編集やたんぱく質合成などの技術も学び、研究課題をより加速させるための技術を習得した。また、積極的に学術調査や論文執筆なども行い、投稿論文2報を発表した。以上のことから、今年度は期待通りの成果を挙げたと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、金ナノ粒子表面にEGFおよびポリエチレングリコール(PEG)を共固定したナノ粒子コンジュゲートを用いて、粒子の作用機序を明らかにし、新しいナノ粒子抗がん剤としての応用を目指す。これまでの他グループからの研究報告によると、EGF担持ナノ粒子によるアポトーシス誘導には、粒子自身が細胞内に取り込まれることが必須条件とされていた。しかし申請者は、脂質ラフトと呼ばれる細胞膜に存在するナノドメインが粒子のアポトーシス誘導活性獲得に重要な役割を持つことを示してきた。この結果は、EGF担持ナノ粒子コンジュゲートは、細胞内に取り込まれるよりも早い段階でアポトーシス誘導活性を獲得する可能性を示唆している。そこで今年度の最初の実施計画として、EGF担持ナノ粒子コンジュゲートがアポトーシス誘導活性を獲得する応答場を特定するために、粒子と細胞膜上のEGF受容体の反応に注目して実験を進める。具体的には、細胞膜に存在する脂質ラフトや、粒子のようなナノ材料を認識するたんぱく質など、粒子と細胞の初期反応に関与する因子を薬剤処理やゲノム編集によって制御し、粒子がどのようにしてアポトーシス誘導活性を獲得するのかを調べる。さらに、ナノ粒子がエンドサイトーシス経路を制御された細胞に対して、どのような活性化パターンを誘導するのかを調査する。対象のアポトーシス因子としては、細胞の運命決定に関与する細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)やセリン/スレオニンキナーゼ(AKT)などの下流の細胞内シグナル伝達経路や、アポトーシスの指標となるCaspase-3を調べることを計画してる。続いて、粒子の細胞内動態をイメージングによって調べる。免疫染色やゲノム編集でラベル化した細胞にナノ粒子コンジュゲートを投与し、アポトーシス因子が発生する場所や空間を特定し、EGF担持ナノ粒子が新たな抗がん剤として有用であるのか調査する。
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Research Products
(4 results)