2020 Fiscal Year Annual Research Report
考古資料と歴史史料を用いた15~18世紀のマヤ民族研究:イツァ族を例に
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19J02048
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Research Institution | Kyoto University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
白鳥 祐子 京都外国語大学, 京都外国語大学ラテンアメリカ研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | マヤ文明 / 植民地地代 / 考古学 / 歴史学 / 異分野融合 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度における研究目的は、15世紀半ばから17世紀末にかけてのイツァ・マヤ族の内部抗争を考古資料と文献史料によって明らかにし、イツァ族のスペイン人侵攻に対する長期抵抗の社会戦略を探ることであった。しかし新型コロナウィルス感染症の影響により、海外渡航ができなくなったため、予定していた研究計画を大幅に変更した。2020年度はデータ入力やデータ分析、黒曜石石器の蛍光X線分析、炭化物の炭素年代測定を行った。2021年度は一度分析した黒曜石石器を再度蛍光X線分析を行って詳細なデータを得るためノースカロライナ州立大学にて微量元素分析を行った。その後ケンタッキー州のセンターカレッジにて技術的分析を行い、黒曜石の産地同定と黒曜石石器の型式分類を行った。この結果は、共同研究者により、アメリカの中西部にて行われた考古学会において研究発表された。 文献史料研究では、2021年1月より週1回大越教授と共に16~18世紀にかけてスペイン人によって書かれた文献史料を読んでいる。2020年度にスペイン、セビリアのインディアス総合古文書館にて文献調査を行う予定であったが、海外渡航ができなくなったため、総合古文書館のウェブサイトにて閲覧可能な文献や、これまで英語訳で読んでいたイツァ族に関するスペイン人によって書かれた文献を、大越教授に史料の読み込みや史料批判の仕方を指導していただいている。文献史料の中から、特にイツァ族の社会・経済・政治組織・生活様式・戦闘に関する記述に注目し、考古資料で得られたデータを裏付ける記述を抜粋し、文献史料と考古資料を突き合わせ、学術論文としてまとめ発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度は、新型コロナウィルス感染症の影響により、海外における調査研究ができず、考古資料の輸出も遅れたため、当初の計画より大幅に遅れている。2019年にすでに輸出していた黒曜石片は、再度蛍光X線分析を行った結果、詳細な微量元素が明らかになり、黒曜石産地が同定された。その後、ケンタッキー州センターカレッジにて実測分析が行われ、黒曜石片の種類と型式が明らかになった。その結果、ニシュトゥン・チッチ遺跡のセクターPPから出土した黒曜石片は主に(76%)石刃で、その他スクレイパー、石核が検出された。石刃と石核から、大部分の石刃は現地で制作されたことが明らかになった。その他戦闘用の石鏃はほとんどなく、セクターPPが居住地であったと推測される。 また、同じく新型コロナウィルス感染症の理由により、昨年度グァテマラニシュトゥン・チッチ遺跡における発掘調査と周辺のレーザー測量(LiDAR)が中止となり、更なる考古資料データを得ることができず、また詳細な3D地図を作成することができなかった。 文献史料研究では、本年度スペイン、セビリアのインディアス総合古文書館にて文献調査を行う予定であったが、海外渡航ができなくなったため、総合古文書館のウェブサイトにて閲覧可能な文献を、大越教授の指導のもと、文献の読み込みと史料批判を行っている。昨年度は18世紀初頭に出版されたスペイン人によるイツァ族征服に関する文献史料を歴史書としてまとめた「Historia de la conquesta de el Itza」を日本語に翻訳しながら史料を読み解き、征服前夜のイツァ族や周辺の人々による生活様式や行動パターンから、考古資料で得られるデータを突き合わせている。
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Strategy for Future Research Activity |
グァテマラからアメリカに輸出された考古資料(土器片、黒曜石片、炭化物、動植物試料)は、今年度それぞれの専門家に郵送し、科学分析を行う。黒曜石片はセンターカレッジにて、炭化物はアリゾナ大学にて、動物骨はミシシッピー大学にて、植物試料はコーネル大学にて分析を依頼する。2019年に輸出した黒曜石片は2年間の輸出許可をもらっているため、今年度返還する予定である。 2020年度に中止となったグァテマラニシュトゥン・チッチ遺跡周辺のレーザー測量(LiDAR)は次年度行う予定であり、そのデータをもとに詳細な3D地図を作成する。 文献史料研究では、オンラインにて入手可能な文献史料の収集と読み込みを行い、イツァ族の居住形態や生活様式、行動パターンを抜粋し、考古資料との整合性から検索できるようデータベースを作成する。海外渡航が可能であれば、スペイン、セビリアにあるインディアス総合古文書館にて文献調査を行う予定である。
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