2019 Fiscal Year Annual Research Report
始原的隕石からの消滅核種Cs-135の検出の試みと太陽系初期年代学の構築
Project/Area Number |
19J10133
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
佐久間 圭佑 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | バリウム / 同位体 / 消滅核種 / 原始太陽系 / コンドライト / セシウム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、消滅核種135Csの初期存在度を見積もることを目的とし、太陽系始原物質である炭素質コンドライト(Cold Bokkeveld、Murray、Nogoya、NWA 4428)に対して酸による段階溶出実験を実施し、全岩試料と合わせて化学的に異なる6つのフラクションを回収した。これらフラクションの大部分に対しては所定のイオン交換法によってSrおよびBaを分離回収し、表面電離型質量分析計にてその同位体比測定を実施した。残りの試料溶液は、Rb、Sr、Cs、Baおよび希土類元素の濃度測定に使用した。 炭素質コンドライトの多くの酸溶出フラクションのBaおよびSr同位体データは、全岩に見られた同位体異常に比べて大きな同位体異常が見られ、そのBa同位体データには135Baに相関を持つ137Baおよび138Baの正の同位体異常が見られた。これらの結果は始原惑星物質中には初期太陽系における原子核合成成分の不均質性に関する情報を保持していることを示唆している。 炭素質コンドライトの酸残さの同位体異常は、始原惑星物質に含まれる耐酸性物質のs-過程原子核合成成分のキャリア物質であるプレソーラーSiC粒子の濃集に伴う同位体異常であると考えられているが、Cold Bokkeveld、Murray、Nogoyaの酸残さのBa同位体データの相関に基づく考察からは、s-過程原子核合成成分の寄与では説明できない138Baの同位体異常が認められた。元素濃度データを考慮した結果、酸残さのBa同位体異常は138Baに顕著な正の同位体異常をもつプレソーラーX粒子に起因する可能性が考えられる。 本研究ではこの酸残さの同位体異常がs-過程の原子核合成成分の寄与、X粒子の寄与および135Csの放射壊変起源の135Ba同位体異常の寄与から成るモデルを提案し、消滅核種135Csの同位体存在度の見積もりを試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は4種類の炭素質コンドライトに対して酸による段階溶出で得られた各フラクションのBaおよびSr同位体比測定、元素濃度測定を実施し、それらの結果に関する議論を進めることができた。同位体データの詳細な解析により、初期太陽系における原子核合成成分の不均質性に関する考察を進めることができた。始原惑星物質中の同位体異常について隕石試料の同位体データと元素濃度データを用いた詳細な議論を行うことは、135Csの同位体存在度の見積もりを実施するうえで重要であるため、本研究は順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に分析した隕石試料とはタイプが異なる炭素質コンドライト(CO、CK)に対し、酸による段階溶出実験を行い、それらのSr、Ba同位体比測定、元素濃度測定を行う。これまで用いたCMコンドライトはその母天体において水質変成を経験しているが、CO、CKコンドライトはその岩石学的特徴から、隕石母天体上で熱変成を経験していることがわかっている。これら多様なタイプの炭素質コンドライトの同位体比測定および元素濃度測定から得られる結果に基づいて初期太陽系におけるBa同位体異常についての考察を行い、135Cs放射改変起源の135Ba同位体異常の痕跡の検出を試みる。 また、コロナウイルスの影響に伴い参加を予定していた3月の国際学会(LPSC)や、来年度の国際学会(国際隕石学会)の中止が決定した。来年度は出張を伴う分析や学会参加の中止が予想されるため、一部計画を変更する必要が生じると考えられる。このため、所属機関で実施可能な同位体比測定に必要な化学実験の改良を検討し、実試料に対する実験を効率よく進めることで、感染状況を確認しつつ出張を伴う同位体比測定を進める。
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Research Products
(2 results)