2019 Fiscal Year Annual Research Report
抗マラリア薬アルテスネートを用いたがん予防法の開発とその分子機構の解明
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19J10184
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
鱧屋 隆博 東京理科大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | アルテスネート / Wntシグナル / 家族性大腸腺腫症モデルマウス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、既存薬ライブラリーを用いたがん予防スクリーニングから同定したアルテスネート(抗マラリア薬)が大腸がん化学予防剤として有用であるか、について培養細胞及び動物実験を用いて検討することにある。 培養細胞を用いた実験では、ヒト大腸がん由来細胞においてアルテスネートがTCF/LEF転写活性を抑制し、その下流にある細胞増殖関連因子のmRNAおよびタンパクレベルの発現量も抑制した。また、アルテスネートに似た構造体の作成を行ない、Wntシグナル抑制について評価を行ない薬効部位を明らかにした。そして、アルテスネートの細胞内標的タンパク質を同定するために、薬効部位ではない場所に機能性ナノ磁性微粒子(FGビーズ)を結合された。その後、作成した薬剤ビーズを細胞抽出液と混合させ、磁気にて薬剤結合タンパク群を溶液へと溶かし込み回収した。この溶液を質量分析にて解析を行なう事で、アルテスネート結合タンパクの候補リストを作成した。 動物モデルを用いた実験では、家族性大腸腺腫症モデルマウス(Minマウス)に対して、5週齢から13週齢の8週間において混餌にてアルテスネートの投与を行ない、13週齢時の腸ポリープ生成数について検討を行なった。結果としては、コントロール群に比べてアルテスネート投与群にて、小腸部位のポリープ生成数が減少した。また、正常粘膜部位および腸ポリープ部位での細胞増殖関連遺伝子のmRNA発現レベルについてRT-PCRを用いて検討したところ、腸ポリープ数部位において発現量が減少していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画一年次では、スクリーニングにて同定されたアルテスネートの培養細胞における毒性評価とWntシグナル(TCF/LEF転写活性)の抑制を行なう濃度域を明らかにすることが第一の目的であった。また、RT-PCRやウエスタンブロット法によってmRNAおよびタンパクレベルでの影響についても明らかになった。さらに、アルテスネートに似た構造体を作成したことで薬効部位が明らかになり、アルテスネートの細胞内標的タンパク質を同定するための大きな前進となった。一方で、TCF/LEF転写活性の調節を行なう上流遺伝子の発現量にはアルテスネートがあまり影響していないことから、Wntシグナル関連遺伝子に直接に作用していないとも考えられた。現在、機能性ナノ磁性微粒子(FGビーズ)とのアルテスネート結合を行ない、細胞抽出液から薬剤結合タンパクの候補を見出したことで、候補タンパクについて解析を行なうことで今後の研究の方針がある程度定まると思われる。 動物モデルを用いた実験では、過去の研究でアルテスネートを8週間投与した実験報告があまりないことから、予備実験をいくつか行ないその結果、投与濃度を設定するまでに時間がかかってしまった。しかし、本年度予定していた家族性大腸腺腫症モデルマウスにおけるアルテスネート投与による腸ポリープ数の影響解析まで実施することが出来、結果としても、腸ポリープ数の減少とポリープ部位での細胞増殖関連遺伝子の発現レベルの減少も確認されたことから、計画していた動物実験の一つが完了することが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
培養細胞を用いた研究方針では、昨年度実施した機能性ナノ磁性微粒子(FGビーズ)及び質量分析を用いて絞り込みを行なったアルテスネートの細 胞内標的タンパク質の候補遺伝子について詳細な解析を行なう。方法として、まず各遺伝子についてsiRNAを用いた遺伝子ノックダウンを行なう。その後、通常状態では、TCF/LEF転写活性を抑制するアルテスネートの濃度で、候補遺伝子をノックダウンさせた細胞でTCF/LEF抑制効果が消失したものを選別する。そして、選別した遺伝子とWntシグナル関連遺伝子との関係性について論文やデータベースを参照し、必要に応じて 、遺伝子やタンパクレベルでの影響について検討を行なう。最終的に、細胞内標的タンパク質を明らかにし、アルテスネートによる細胞内Wntシグナ ル抑制メカニズムを示す。 動物モデルを用いた研究方針は、家族性大腸腺腫症モデルマウス(Minマウス)の腸ポリープ生成数を抑制したアルテスネートの濃度にて、Wntシグナルの抑制効果による生体の発達に影響を及ぼさないかの評価を行なう。方法として、妊娠したマウスに対して混餌にてアルテスネートの投与を行ない、産まれてきた仔の行動及び体重等を観察および測定することでアルテスネートによる成長への影響について検討を行なう。この結果より、生体に対してアルテスネートを用いた際、副作用等の影響が少ないことを示すことが出来たらと考える。
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Research Products
(2 results)