2019 Fiscal Year Annual Research Report
乳腺上皮細胞の乳生産性に対する植物エストロゲンの生理作用と作用機序の体系的解明
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19J10189
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
津上 優作 北海道大学, 農学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 乳腺上皮細胞 / 植物エストロゲン / 乳生産 / タイトジャンクション / 乳房炎 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、植物エストロゲンが妊娠期、泌乳期、乾乳期の乳腺上皮細胞へ及ぼす影響を体系化し、乳牛の選択的な植物エストロゲン摂取方法を提案するための基盤となる細胞生理学的な知見を得ることを目的としている。本年度は、特に、泌乳期におけるウシ乳腺上皮細胞の乳産生へ及ぼす影響をin vitroで調べるため、ウシ乳腺上皮細胞を用いた乳分泌モデルの作製を試みた。様々な培養方法を検討したところ、コラーゲンゲルを被膜したセルカルチャインサート上で培養した場合、細胞膜頭頂部のタイトジャンクション (TJ)領域に沿って共局在するオクルディンとクローディン-3が観察された。また、乳タンパク質であるβ-カゼインはゴルジ体から頭頂部細胞膜にかけて局在し、グルコース輸送体のGLUT1は体内側の側部細胞膜に、免疫センサーであるTLR4は体外側の頭頂部細胞膜に局在していた。さらに、インサート上層へ乳タンパク質、乳糖などが分泌されていることも確認された。以上のことより、コラーゲンゲルを被膜したインサート上でウシ乳腺上皮細胞を培養することで、乳成分の分泌、TJバリアの形成および明確な細胞極性を示す乳分泌モデルの作製に成功した。この成果はAnimal Science Journalに掲載された。 上記の乳分泌モデルの生体再現性を検証するため、乳房炎原因物質であるリポ多糖およびリポタイコ酸に着目し、その影響を調べたところ、乳成分産生やTJバリア機能および膜タンパク質などに及ぼす影響が異なることがわかった。これらの結果は既知のin vivoの結果と一致していたことから、本研究で作製した乳分泌モデルの生体再現性は高いと考えれた。この成果は第6回乳房炎サマーキャンプならびに日本乳房炎研究会第24回学術集会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
作製したウシ乳分泌モデルを用いて植物エストロゲンの影響を調べたところ、各植物エストロゲンの種類依存的に乳腺上皮細胞の乳産生へ異なる影響を及ぼすことがわかった。乳産生を上方調節するSTAT5や下方調節するSTAT3などの活性化レベルも異なっていたため、それぞれ異なる経路で乳産生に影響を及ぼすと予想される。 妊娠期における影響として乳腺上皮細胞の増殖性へ及ぼす影響を単層培養により調べた。乳産生へ及ぼす影響と同様に各植物エストロゲンの種類依存的に異なる影響を及ぼしていたが、乳産生へ促進的に作用していたものが増殖性には抑制的に作用した場合もあり、乳腺サイクルの時期により同じ植物エストロゲンでも乳腺上皮細胞へ及ぼす影響が異なることが示唆された。また、乳腺発達をin vitroで再現するモデルの作製を試みた。単層培養したウシ乳腺上皮細胞をトリプシンにより剥離し、非接着性のアクリルアミドゲル上で培養し、5-10個の上皮細胞からなるスフェロイドを形成した。スフェロイドをマトリゲル内で三次元培養し、EGF処理したところ、スフェロイドサイズの増大とともに内腔が形成される様子が観察された。 また、泌乳期マウスへの植物エストロゲン投与の検証も行った。その結果、in vitro実験と同様にゲニステインにより乳産生が阻害され、エクオールにより乳産生が促進することがわかった。さらに、マウスの培養モデルを用いてゲニステインによる細胞内シグナル経路の影響を調べた結果、JAK2/STAT5シグナルが不活性化し、STAT5の核内移行も阻害されていた。さらに、ゲニステインは処理5分後にはEGFR下流シグナルであるERK1/2のリン酸化が阻害することもわかった。 以上より、おおむね順調に進展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
植物エストロゲンが退行期乳腺へ及ぼす影響を調べるため、in vitro退行期モデルを作製する。三次元培養した乳腺胞形成モデルにプロラクチンなどにより乳分泌を誘導後、退行因子であるLIFを培地に添加し、乳腺胞の退縮を再現する予定である。作製したモデル各植物エストロゲンを添加し、乳腺胞の構造を観察するとともに、生存性や細胞死の影響を体系的に評価する。 妊娠期および泌乳期の影響については現在行っている各植物エストロゲンの影響をまとめるとともに、ダイズや赤クローバーなどのマメ科飼料を摂取した乳牛における血中濃度に基づき、複数の植物エストロゲンが同時に存在する場合、乳腺発達や乳産生にどのような影響を及ぼすか調べる予定である。 また、ゲニステインの作用機序についてEGFシグナルの短期的な阻害がJAK2/STAT5シグナルの不活性化および乳成分産生の低下に関わっているかを阻害剤などを用いて検証する。
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