2019 Fiscal Year Annual Research Report
レチナールシッフ塩基を保存しない微生物型ロドプシンの海洋性藻類における機能解明
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19J10272
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
山内 夢叶 名古屋工業大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 微生物ロドプシン / Rh-noK / レチナールシッフ塩基 / Guillardia theta |
Outline of Annual Research Achievements |
微生物ロドプシンは7回膜貫通α-ヘリックス構造を取り、Gヘリックス上のリジンに発色団であるレチナールが結合する光受容タンパク質である。細胞内共生が注目されるクリプト藻Guillardia theta(G. theta)はゲノム上に44種類もの微生物ロドプシン様遺伝子を持ち、さらに、そのうちの10種類は発色団レチナールを結合するリジン残基を保存していない(Rh-noK)。Rh-noKは、リジン残基を保存しないことからレチナールを結合できず光受容できないと考えられ、生細胞内で機能していない偽遺伝子である可能性がある。しかし、私はG. thetaにおいて複数のRh-noK遺伝子のmRNAへの転写を確かめている。つまり、Rh-noKは偽遺伝子ではなく生細胞内で確かに機能を持っていると考えられる。Rh-noKは分子機能、生理機能ともに明らかとなっておらず、機能に関する知見が皆無である。私の研究目的は多数のRh-noKを持つG. thetaを用いてRh-noKの機能を明らかにすることであり、そのためにG. thetaの生育実験と遺伝子発現解析を行った。 無機栄養培地で生育したところ、暗条件ではG.thetaの細胞は生育できず、光の強度によって生育速度が変化した。この結果からG. thetaの生育に光が不可欠であることが示された。また、培地中の窒素源に関して、G. thetaは窒素源として硝酸態よりもアンモニア態を利用し、アンモニア欠乏により細胞の色が褐色から緑色へ変化した。微生物ロドプシンの多くが利用する緑色光領域の吸収が減少したことから、Rh-noKを含む微生物ロドプシンの遺伝子発現解析を行った。その結果、アンモニア欠乏により6種の遺伝子が増加し、6種の遺伝子が減少していた。Rh-noK遺伝子は解析した6種がいずれも減少する傾向にあった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Guillardia theta(G. theta)由来のRh-noKの機能解明のため、分子実験と生物実験を計画している。分子実験は酵母発現系を用いてRh-noKタンパク質を発現・精製し、相互作用因子の有無を調査する。現時点で、2種類のG. theta由来のRh-noKについて酵母発現系によるタンパク質の発現・精製に成功している。また、真正細菌由来のRh-noKについて、アミノ酸変異による機能転換に成功しており、他の微生物ロドプシンと同様の構造を取っていることを確認している。 生物実験は、G. thetaの生育を調査し、その上でRh-noKの発現様式を明らかにするとともに、遺伝子改変技術の確立を目指す。現在までに、G. thetaの生育における光と窒素源の有無の影響を確認している。G. thetaは光合成生物であり、完全暗条件では生育できないことが明らかとなった。また、培地中の窒素栄養の有無の生育に対する影響も確認している。G. thetaは窒素源として硝酸態は利用できず、アンモニア態を利用することがわかった。さらに、アンモニア十分条件では細胞が褐色であるが、アンモニア欠乏条件では細胞が緑色になった。微生物ロドプシンの多くが利用する緑色光領域の吸収が減少したことから、Rh-noKを含む微生物ロドプシンの遺伝子発現解析を行うと、アンモニア欠乏により6種の遺伝子が増加し、6種の遺伝子が減少していた。Rh-noK遺伝子は解析した6種がいずれも減少する傾向にあった。 また、遺伝子改変の際、遺伝子改変株の選抜に固体培養をするため、個体培養の条件検討を行った。その結果、1%アガロースプレートにG. theta培養液を撒き、その上に0.2%アガロース培地を重ねることで培養可能となった。 以上のように、Rh-noKの機能解明に向けた研究が順調に進んでいることが理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
分子機能に関しては、現在までに異種発現系によりRh-noKを発現し、単一のアミノ酸変異によりRh-noKがレチナールを結合できることを明らかにした。つまり、Rh-noKは微生物ロドプシンに重要な構造を保持し、レチナールが結合できるほどの空間をタンパク質内部に保有していると考えられる。今後は、その空間へのレチナール以外の分子の結合の有無を調べる。主にカロテノイドやG. thetaの細胞抽出液をRh-noK精製タンパク質と混合し、結合する物質を再抽出することで化学物質の結合を確認する。 生理機能に関しては、G. thetaの生育実験とRh-noKの遺伝子発現解析を中心に行う。生育実験は、培地組成や温度、光の強度や波長等を変化させたときの生育への影響を観察する。そして、様々な条件で培養した細胞に対して、qRT-PCR によりRh-noKの遺伝子発現を解析する。また、タンパク質特異的なペプチド抗体を用いた蛍光抗体染色や、密度勾配遠心分離法により細胞小器官を分離した後にウェスタンブロッティングを行うことにより、発現部位を明らかにする。以上の実験から得られた発現条件をもとに、Rh-noKが受容する刺激や生理機能及び分子機能を予測し、精製タンパク質等を用いて検証する。 並行して、G. thetaの遺伝子操作技術を確立する。緑藻Chlamydomonas reinhardtii等の方法を参考に、エレクトロポレーション法等をG. thetaへ適応させる。遺伝子導入の有無は、薬剤耐性遺伝子を発現する遺伝子を選抜マーカーとして導入し、薬剤耐性の有無によって確認する。G. thetaの遺伝子操作技術が確立できれば、遺伝子を欠損、あるいは過剰発現させたときに引き起こされる現象を確認する。 以上の結果をもとに、G. thetaにおけるRh-noKの機能について議論する。
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Research Products
(6 results)