2019 Fiscal Year Annual Research Report
量子相関光子対を利用した高効率2光子励起法の開拓とその光化学反応への応用
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19J10328
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
長坂 龍洋 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 量子相関光子対 / 2光子吸収 / 6π電子環状反応 / 光異性化反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、量子相関光子対とよばれる時空間的に強い相関をもつ光子を利用することにより、特定の電子励起状態を選択的に作り出し、そこから進行する光化学反応の精密制御を目指すものである。 令和元年度は、量子相関光子対発生光学系の構築、用いる光異性化分子系の探索及びその光励起後の反応メカニズム解析を行った。量子相関光子対の発生に関しては、Spontaneous Parametric Down Conversionとよばれる方法を採用した。これは、非線形光学結晶を用い1つの光子を波長の異なる2つの光子に分割する技術であり、実際に構築した光学系ではチタンサファイアレーザーの出力の第2次高調波を入力として、特注のBBO結晶を用いて800 nm付近の波長域の量子相関光子対を発生させた。これらの光子対について、Hong-Ou-Mandel干渉を測定することにより良質な量子相関光子対の発生を確認した。さらに、「量子相関2光子吸収断面積」を測定するため、単一光子計数法に基づく計測システムを構築し、その測定精度を評価した。 これと並行して、量子相関光子対による高効率な2光子吸収を観測するための試料探索を行った。まず古典光による光挙動を確認するために、Z-scan法を用いた2光子吸収断面積の測定、およびフェムト秒過渡吸収測定を行った。その結果、光異性化反応を示す誘導体である2,3-dithiazolylbenzothiophene (DTA)は~200 GMと一般的な色素と比べても高い2光子吸収断面積を示し、量子相関光子対への応用に適するサンプルであることが示唆された。加えて、本誘導体について光励起後の反応メカニズムを明らかにするために、フェムト秒過渡吸収測定を行った。その結果、DTAは同様の6π電子環状反応を行う誘導体とは異なる反応メカニズムで高効率に電子環状反応が進行していることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在のところ、量子相関光子対による反応挙動を検証するためにチタンサファイアレーザーを出力として、量子相関光子対の発生光学系を構築した。その上で、HOM干渉を用いて、量子相関光子対の質の検証および発生を確認した。また、量子相関光子対による高効率2光子吸収の観測に用いるサンプルの探索では、古典光において~200 GMと非常に高い二光子吸収断面積を持つ誘導体を見出した。その誘導体についてフェムト秒過渡吸収測定による光励起後の反応ダイナミクスについて検討したところ、通常の6π電子環状反応とは異なる反応メカニズムで高効率に反応が進行することを見出した。一般的に6π電子環状反応の反応メカニズムは閉環反応と開環反応は励起後、2Aポテンシャルに沿って進行し、その後同一の円錐交差(CI)において基底状態の開環体と閉環体に分岐することが多くの理論、実験の結果から示唆されている。この反応スキームでは、閉環・開環反応の量子収率はCIにおける分岐比によって決定されるため、それらの反応収率の和は原理的に1をこえることが不可能であった。しかし、本誘導体の閉環反応では、開環体の光励起後、閉環体の「励起状態」が生成する様子が観測された。これは、CIを迂回して閉環反応が進行することを意味しており、CIを介して基底状態の閉環体が生成するという従来のスキームとは全く異なるメカニズムである。 本研究成果は、開環・閉環反応の反応収率の和が1をこえる超高感度光応答性分子の開発に向けて明確な指針を与えるだけでなく、高効率な反応性は微弱な量子相関光子対を用いた測定に対して有用なサンプルであることを示唆するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、古典光における2光子吸収断面積、反応メカニズムについて明らかになったDTAに対して量子相関光子対による高効率2光子吸収の観測を目指す。同一波長励起(ω1 + ω1 =2ω)による2光子反応の測定結果や量子化学計算から反応性が高いと考えられる電子状態を特定し、ω1 , ω2の波長を変化させて電子状態を選択的に励起する。あわせて反応性の異なる化合物に対しても同様の検証を行い、得られた結果について古典光と比較し、励起確率の増幅率を定量的に明らかにする。
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