2019 Fiscal Year Annual Research Report
Didactic Controversy and Curriculum Transition on Moral Education Reform in Germany
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19J10450
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
平岡 秀美 筑波大学, 人間総合科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 倫理科・倫理授業 / 価値教育 / ドイツ教授学 / 新カント派(超越論的批判教育学) / 知識と態度 / 道徳教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ドイツにおける倫理・道徳教育科目をめぐる教授学的論争とその授業構想・実践の内実を明らかにすることである。 2019年度には、ドイツのボン大学の教師教育・研究センターに約半年間滞在し、ドイツの「価値教育」(Werterziehung)を専門領域の一つとするシュタンドップ(Standop,J.)教授から定期的に研究指導を受けることができた。 具体的には、学校における「倫理授業」(Ethikunterricht)ならびに「価値教育」についての議論に焦点化し、資料収集と文献精読・分析を行った。渡独前である上半期には、その途中経過を「90年代以降のドイツにおける価値教育 (Werterziehung) に対する教授学的批判」とのタイトルで、日本教育学会第78回大会において発表した。また、この発表について、渡独中にシュタンドップ教授ならびにハイト(Helmut,H.)教授から、指導・助言と追加の資料提供を得ることができた。 加えて、シュタンドップ教授の紹介で、ラデンティン(Ladenthin,V.)教授からの資料提供が得られた。彼は1999年に「授業科目として倫理」(Ethik als Unterrichtsfach)というシンポジウムにおいて講演し、その後、価値教育としての倫理授業について論文集を執筆・監修するなどして、このテーマを中心的に取り上げてきた。彼の助言の下これらの資料を検討すると、上記のシンポジウムや論文集において、多くの研究者が学校における価値教育としての倫理授業を論じる際に、ペッツェルト(Petzelt,A.)ら新カント派の理論、とりわけ「知識」(Wissen)と「態度」(Haltung)の活動形式の差異と接続の問題についての理論を参照しているということが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度においては、当初の計画通り、前半に研究テーマに関する理論研究とドイツでの研究に向けた準備、後半にドイツ・ボン大学における留学・研究活動を行なうことができた。 具体的には、価値教育・倫理授業に焦点をあてた研究を進め、その成果を日本教育学会第78回大会において「90年代以降のドイツにおける価値教育 (Werterziehung) に対する教授学的批判―ハイト (H. Heid) の所論を手掛かりに―」として発表した。また、9月からはドイツ・ボン大学に滞在して、上記論文の検討対象でもあったハイト教授から指導を受けた。このほかにも、ドイツにおける倫理、道徳、価値教育に関する資料収集を進めるとともに、紹介をいただいた研究者から専門的な指導や情報提供を受けた。その中でも特に、「研究実績の概要」でも述べた通り、ラデンティン教授からの資料とその分析によって、ドイツにおける「倫理授業」と「学校における価値教育」と「新カント派(超越論的批判教育学)の理論」との関連性が、少しずつ明らかになりつつあることは、本研究の目的である、「現代の価値多元化社会における、教授学的理論基盤に基づく道徳教育実践の構想」に照らして、大きな進捗であった。 実践面においても、欧州でのCOVID-19の感染拡大防止などの事情から、当初予定されていたドイツの学校を訪問しての研究活動は見送りとなったものの、そのような状況下において可能な範囲で、ドイツ各州のカリキュラムや教材等の資料収集を進め、学校現場においてどのような授業が構想されているかについて現状を把握した。これらをふまえて、学会発表や論文執筆の準備を進めており、来年度には研究論文の成果発表を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度におけるドイツでの研究活動によって、既に以下のことを突き止めている。それは、マリアン・ハイトガー(Marian Heitger)教授、ユルゲン・レクス(Juergen Rekus)教授、ラインハルト・シルメラー(Reinhard Schilmoeller)教授などをはじめとする多くの研究者が、学校における価値教育としての倫理授業を論じる際に、アルフレッド・ペッツェルト(Alfred Petzelt)、ヴォルフガング・フィッシャー(Wolfgang Fischer)ら新カント派の理論(懐疑的・超越論的批判教育学)、とりわけ「知識」(Wissen)と「態度」(Haltung)の活動形式の差異と接続の問題についての理論を参照しているということである。そのため、彼らによる議論の内容とその理論基盤とされている新カント派の主張についてより詳らかにし、2020年度中に研究論文としてまとめ、日本教育方法学会紀要に投稿予定である。 加えて、ドイツ各州の倫理授業の具体的なカリキュラムならびに教科書等の教材についても、シュタンドップ教授やギーセン大学アニータ・レーシュ(Anita Roesch)教授の協力を得て、収集することが既にできている。本年度はこれらの資料をもとに、上記の理論的な議論・論争を照らし合わせ、関係性を探りつつ、ドイツにおける倫理・道徳教育科目のカリキュラム変遷を分析していく予定である。
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