2019 Fiscal Year Annual Research Report
企業間競争における消費者保護政策:消費者探索理論によるアプローチ
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19J10596
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
橘高 勇太 大阪大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 消費者探索 / 需要変化 / 品切れ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、消費者が事前に商品(財)の完全な情報を持たない状況において、消費者間の差異や企業の販売戦略等が、消費者の購買活動や市場成果に与える影響を理論的に分析し、社会にとって望ましい消費者保護政策を検討することである。今年度の研究成果は以下の2つである。
1.探索する財の種類が異なる消費者が存在する状況における、複数財企業の戦略に関する分析を行った。消費者が複数種類の財を同時に探索する・探す財の種類が消費者によって異なる設定は現実的に妥当であると言えるが、このような状況を分析した研究は他になく、この点に本研究の意義がある。ここでは、複数財を販売する企業にとって、複数財を同時に探索する消費者の存在が重要であり、彼らの同時購買を促すため、企業は各財に異なる価格をつけることを示した。本研究では、企業がある財に低価格をつけつつ他の財に高い価格をつけるような戦略や、需要が高まるシーズンに各財に低価格をつけるような戦略(例えば歳末セール)を部分的に捉えられており、競争政策や企業戦略を考える上で重要性が高い。現在は結果をまとめ、国際学術誌に投稿中である。
2.品切れの可能性が消費者の探索行動に与える影響を、理論および実験を通じて分析した。ここでは、品切れの可能性は消費者の探索行動に対し、①探索の強度、②探索回数、③市場参加の意思決定、の三つの経路を通じて影響を与えることを理論的に示した。そして、品切れ率の増加は大抵の場合において、消費者および販売店の両者にとって望ましくないという含意を得た。さらに、経済実験を通じてこれらの理論予測が支持されることを確認した。品切れは現実社会で多く観測される経済現象であるが、この分析結果は、政策当局や実務家に対し、品切れを管理することがいかに重要であるかを示すものであり、社会的意義が大きい。この結果をまとめたものを、定評ある国際学術誌に投稿予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題はおおむね順調に進展している。理由は以下の3点である。 1.当初から取り組んできた、探索する財の種類が異なる消費者が存在する状況における複数財企業に関する研究については、当初の計画よりやや遅れ気味であるものの、多くの学会・研究会での報告を通じて研究の目処が立ち、定評ある国際学術誌への投稿過程にある。 2.初年度に取り組む計画であった、消費者間の探索費用の差異を考慮した企業間競争に関する研究については、品切れという特定の状況に絞ったこと、経済実験手法の習得に努めたことで、計画を上回るペースで成果を得た。現在は学会に投稿するとともに、マーケティングで定評ある国際学術誌への投稿準備を進めている。 3.外部の関連研究者との接点を活かし、当初の計画にはなかった、現実の電子商取引市場を運営する企業による販売行動を説明できる理論研究に取り組んだ。これにより、研究課題に大きな発展が見られた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は以下の3点である。 1. 国内外の学会・研究会で積極的に発表を行い、研究のブラッシュアップに努める。 2. 消費者探索に関する最新理論を習得するとともに、引き続き経済実験手法の習得に努め、理論と実証の両側面から分析を行う。 3.外部の関連研究者と本研究課題に関して議論する場を設定し、課題の進展と発展を目指す。 4. これまで得られた成果に関して、投稿計画の見直しを行い、より積極的な投稿活動を行って国際学術誌への掲載を目指す。
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