2019 Fiscal Year Annual Research Report
ヤムイモにおける窒素固定細菌の 共生機序の解明と栽培への利用
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19J10731
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
高田 花奈子 東京農業大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ヤムイモ / 窒素固定 / 安定同位体 / アセチレン還元法 / メタ16S解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヤムイモはヤマノイモ属植物の総称であり、日本でも鹿児島以南で栽培されている東南アジア原産のダイジョや、世界の生産量の9割以上を占める西アフリカで最も多く生産されている種であるホワイトヤムなどがある。 先行研究により、無施肥でも塊茎収量を得られるダイジョ品種の植物体窒素のうち4割が大気中窒素由来であると推察され、茎と根から窒素固定活性を持つ細菌を分離したことから、ダイジョは低肥沃土壌条件下でも窒素固定細菌との共生により収量を維持していると考えられた。このことから、異なるヤムイモの種でも微生物の窒素固定の関与により生育や塊茎収量を維持する系統の存在が考えられた。 本研究ではヤムイモの窒素吸収機構と窒素固定細菌による生育への関与について解明することを目的とする。その成果から、微生物との共生という新たな観点に基づいたヤムイモの窒素吸収特性に関する知見を得ることで、自然界にいる共生微生物の力を利用したヤムイモ栽培技術の開発を目標とする。具体的に以下について実験を行う。 1) ナイジェリア産ヤムイモ系統における窒素固定活性を示す細菌の分離、2) δ15Nを利用したナイジェリア産ホワイトヤム系統における吸収窒素の由来を検討、3) 15N標識肥料を用いたホワイトヤムの窒素吸収特性の検討、4) 次世代シーケンサーを用いたホワイトヤムに共生する細菌群集構造の解明、5) ホワイトヤム系統への窒素固定細菌の接種、および6)アセチレン還元法を用いたヤムイモの窒素固定能の推定
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究進捗は以下の通りであり、おおむね順調である。 課題1) ナイジェリア産ヤムイモ系統における窒素固定活性を示す細菌の分離 についてはナイジェリアの国際熱帯農業研究所(IITA)で栽培されたダイジョ2系統およびホワイトヤム8系統の茎および根から窒素固定活性を示す細菌計19菌株の分離に成功した。また、分離細菌株について植物生育促進作用を有するか検討を行うため、追加調査中である。 課題2) δ15Nを利用したナイジェリア産ホワイトヤム系統における吸収窒素の由来を検討 について、2018年にIITAで採取したホワイトヤム系統の、茎葉繁茂期の15N値測定、窒素固定寄与率の算出を完了し、ホワイトヤム系統間で窒素固定寄与率に差があることが判った。この結果は、国際学会Tropentag 2019(September 18-20, 2019)で成果報告を行った。引き続き生育後期にあたる塊茎成熟期の試料の分析を行う。 課題3) 15N標識肥料を用いたホワイトヤムの窒素吸収特性の検討 では、分析の結果、系統によって施用された化学肥料の吸収量が異なると考えらえた。さらに施肥を行った場合でも、生育中期に大気由来の窒素を固定し、寄与率は22~38%程度であるということが示唆された。この結果は、日本作物学会第249回講演会(2020. 3. 26)で発表した。 課題4) 次世代シーケンサーを用いたホワイトヤムに共生する細菌群集構造の解明 では、ナイジェリアで採取したホワイトヤム6系統の根、根圏、土壌を対象にメタ16S解析により共生細菌叢の解析を行い、主座標分析の結果から、バルク土壌・根圏土壌・根の各部位で特有の菌叢を有していることが確認された。引き続き施肥の有無や品種ごとの多様性や菌叢の差異等について詳細な解析を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
課題5) ホワイトヤム系統への窒素固定細菌の接種 について、2020年8月ごろをめどにIITAでの植物体への細菌接種実験を行う予定であったが、新型コロナウイルスの影響により、海外での研究の実施が難しく詳細は未定である。渡航が困難な場合、2020年度は、接種予定である細菌についてさらに追加で調査を行い、課題4)のメタ16S解析の結果を踏まえて細菌属を選抜し、課題1)で分離した細菌の中から植物生育促進因子をもつ細菌を選び、接種実験の準備を行う。 課題6) アセチレン還元法を用いたダイジョの生物的窒素固定能の推定 については、ダイジョが生育段階のどのステージで旺盛に生物的窒素固定が働いているのかを植物体のアセチレン還元能(ARA)を測定することにより推定する。2020年度に実験を行うため栽培を開始し、調査を進める。
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