2019 Fiscal Year Annual Research Report
サケ属魚類の母川刷込機構の分子基盤に基づく神経生理学的研究
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19J10799
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
阿部 嵩志 北海道大学, 水産科学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 遡河性回遊魚 / サケ属魚類 / 母川刷込 / 刷込 / 神経 / シナプス可塑性 / 嗅覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
遡河性サケ属魚類の母川刷込と神経伝達物質およびその受容体の関連は示唆されている。しかし,神経伝達物質の放出を制御するシナプス前部の神経分子とサケ類の刷込形成および記憶想起との関連は不明である。本研究は,シナプス開口放出を制御するSNARE複合体とサケ類の嗅覚刷込の関連を明らかにすることを目的としている。 サケ嗅覚中枢(嗅球+終脳)でのシナプス開口放出関連分子(SNARE分子)であるsyntaxin-1およびvamp2の翻訳領域全長のcDNAクローニングを実施し,塩基配列情報を得た。さらに,生活史を通してサケ嗅神経系における同分子のリアルタイム定量PCR(qPCR)解析を行った。サケの降海期にはsnare分子が発現上昇し,外洋索餌回遊期および回帰回遊期の親魚では同発現が低いが遡上後半では発現上昇することを明らかにした。また,サケ嗅球および終脳においてsnap25,stx1bおよびvamp2のin situ ハイブリダイゼーションによる検出系を確立した。 サケとは回遊パターンが異なり,より進化したサケ属魚類であるカラフトマス嗅覚中枢でもsnap25,stx-1およびvamp2の全翻訳領域の塩基配列を明らかにし,嗅神経系において各回遊時期の発現をqPCR解析した。その結果,サケに比べ若齢で回帰・産卵するカラフトマスは,シナプス可塑性が高い状態で河川遡上を開始することが示唆された。 サケ嗅覚中枢において,SNARE複合体形成を制御するシナプス前部神経分子であるmunc13およびmunc18翻訳領域の一部とsynaptophysinの翻訳領域全長のcDNAクローニングを行い,qPCR解析により,嗅神経系におけるこれら分子の発現は,降海期に上昇し,外洋未成熟魚および回帰親魚では低値であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
サケおよびカラフトマス嗅神経系においてSNARE複合体構成分子のcDNAクローニングクローニングを行い,翻訳領域全長の配列を取得した。嗅覚器官,嗅覚中枢の嗅球および終脳におけるsnare分子の発現をqPCR解析し,降海期にsnare分子が発現上昇することから刷込形成との関連を示唆する結果を得られた。サケでのsnare分子の解析結果は,国際学術雑誌に投稿・受理されており,カラフトマスでの結果も国際学術雑誌に投稿・査読中であることから,順調に研究成果を公表できている。 snare分子発現のより詳細な脳領域を特定するためサケ脳でのsnare分子のin situハイブリダイゼーションによる検出系を確立し,嗅覚中枢での発現領域の特定を目指した解析を実施中である。これによりサケ類で嗅覚中枢であると考えられている脳領域においてsnare分子の発現を確認し,嗅覚機能とSNARE複合体の関連性を分析することが可能となった。 シナプス前部におけるsnare分子の制御因子であるmunc13,munc18およびsynaptophysinについて一部または翻訳領域全長のcDNAクローニングおよびqPCR解析を行った。Munc13は,哺乳類でシナプス前膜アクティブゾーンでのSNARE複合体形成を制御することから,シナプスあたり情報量を制御することが示唆されている。これらSNARE複合体制御因子の発現変化をqPCR解析により,同発現の部位をISH解析により把握することで,嗅覚刷込時期のサケ類脳内のシナプス可塑性の分析ツールとして利用可能な状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年春季には,2017~2019年に実施した降河中サケ幼稚魚嗅神経系におけるsnare分子の発現解析の結果から,降河中の移動や成長をより反映した解析が必要となったため,河川内の中流,河口付近等の採集地点を増やし,このサンプルを加えて全体のデータ解析を行う。 サケ嗅覚中枢(嗅球および終脳)でのsnare分子のin situハイブリダイゼーション(ISH)検出系は確立しているので,嗅覚刷込形成期である幼稚魚の嗅覚中枢における各snare分子の発現領域を分析する。また,脳に比べるとqPCR解析ではsnare分子の発現が低い嗅覚器官でもISHによる検出が可能か確認する。 サケ属魚類の種間では,サケとカラフトマスで回遊パターンの違い反映したsnare分子発現パターンの種差が見られた。ふ化・浮上後に降海するサケ,カラフトマスとは異なり,1年以上の河川生活後に降海・降湖するサクラマスと湖沼型ベニザケにおいて,嗅神経系におけるsnare分子の発現パターンをqPCR解析する。これにより刷込形成期と考えられる降海期の嗅神経系におけるsnare発現パターンの共通性,あるいは種特異性が明らかになると期待できる。
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