2019 Fiscal Year Annual Research Report
強相関物質におけるボソン自由度の形成とその量子凝縮に関する計算物理学的新展開
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19J10805
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
山口 伴紀 千葉大学, 融合理工学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 有限温度系 / フラストレート系 / 密度行列くりこみ群 / 第一原理計算 / 動的平均場理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の主要な研究実績は以下の通りである。 1. 非対称J1-J2鎖の密度行列くりこみ群法によるorder-by-disorder機構の研究:本研究では、フラストレートした低次元量子系に対し密度行列くりこみ群法を適用し、いわゆるorder-by-disorderを起源とした種々の量子相の出現を議論した。フラストレートした低次元量子系では、基底状態近傍でマクロな数の状態が縮退しており、その縮退を解くために秩序化するというorder-by-disorder機構が古くから知られ、現在もスピン液体相との関連から精力的な研究がなされている。本研究の特別な場合として知られるΔ鎖では、トポロジカルな素励起であるkink-antikink励起により、低温の比熱等にピーク構造が現れることが指摘されている。本研究は、実際の物質で考慮するべき非対称相互作用を導入し、この模型の基底状態を調べた。相互作用の導入により、J1-J2鎖極限で出現していたHaldane-dimer相から新たなdimer相への相転移が起こることを発見した。またferri相では、basal鎖間では臨界的な相関が発達していることを明らかにした。これを起源として、強い非対称性の下ではferri相から非整合周期ferri相への転移が起きることを発見した。本研究は基底状態に関する研究であるが、作成したプログラムは有限温度に拡張でき、有限温度のフラストレート低次元量子系の研究に応用可能である。 2. 第一原理計算による具体的物質の有限温度相転移の議論:第一原理計算による電子状態解析により1)クロム酸化物Sr2CrO4の圧力下における2段階相転移現象の消失が結晶場準位の再逆転によるものであることを明らかにし、また2)レニウム酸化物Sr7Re4O19の金属絶縁体転移に関して議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、有限温度強相関電子系に現れる相転移現象とそれを解明するための数値計算手法の開発を目的としている。 本年度はまず、有限温度で特異な相転移現象を示すと期待されるモデルの数値的解析に関して密度行列くりこみ群法を応用して行い、フラストレート系において現れる特異な相転移現象をorder-by-disorderの観点から明らかにした。この成果は査読付き論文として出版済みである。また、並行して動的・有限温度密度行列くりこみ群の習得を行った。有限温度の光学伝導度やスピン相関関数などの動的相関関数を含めた、実験で観測可能な物理量の計算可能なプログラムを作成した。さらに、これらを具体的なスピン1模型に適用した研究成果の論文を投稿準備中である。 並行して、第一原理計算に基づいた電子状態解析により、具体的物質の有限温度相転移現象の解明を行った。この内、クロム酸化物・レニウム酸化物に関する研究成果は査読付き論文として出版済みである。また、バナジウム酸化物・モリブデン酸化物に関する実験家との研究も論文投稿済みであり、今後の出版を目指す。特に、後者の研究の中では、第一原理計算と動的平均場法を組み合わせることにより、単純な第一原理計算を超えた相関効果を取り込んだ。これにより、実験結果で現れる性質を理論的観点から説明し、さらに角度分解光電子分光実験で観測されるスペクトルを理論的に予測した。 以上のように研究を遂行した結果、本研究では3件の査読付き論文の出版と2件の国際学会での発表、また2件の国内学会で発表を成果として残した。さらに、2件の論文を投稿中である。また、次年度に向けて、新規数値計算手法の開発も行っている。したがって、研究はおおむね順調に推移しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は習得した有限温度動的密度行列くりこみ群法を、さらに自己エネルギー汎関数法に基づく変分クラスター原理に拡張し、有限温度における相転移を議論する予定である。また、習得した第一原理計算+動的平均場法を具体的物質に適用し、より定量的に物理を明らかにする。具体的には、以下の研究課題を行う。 1)スピン1重項励起子絶縁体候補物質Ta2NiSe5の有効模型、3本鎖Hubbard模型に対する有限温度の動的励起子相関関数の計算を通じて、この物質の励起子プリフォームドペアの形成と、そのボーズ・アインシュタイン凝縮の物理、また、BCS-BECクロスオーバーを明らかにする。これにより、光学伝導度実験においてあらわれるTa2NiSe5とTa2NiS5の定性的な違いを、励起子凝縮という観点から対比的に明らかにする。また理論的な計算から共鳴非弾性X線散乱実験や核磁気共鳴実験への提案を行う。2)スピン軌道相互作用により励起子磁性体が発現していると予測されるCa2RuO4の非弾性中性子散乱実験において観測されるギャップフルな振る舞いを、動的密度行列くりこみ群法を用いたスピン相関関数の計算から理論的に解明し、この物質が励起子磁性体であることを示す。また、第一原理計算から電子状態を解析することにより、より定量的な計算を行う。3)強磁性パイエルス絶縁体である、マンガン酸化物AMg4Mn6O15(A=K,Rb,Cs)の中間温度領域においては、特異なスピン揺らぎがあると予測されている。これに関して、この物質の有効模型と予測される二重交換相互作用模型の有限温度スピン相関関数の計算から、長距離揺らぎの形成とその相転移現象を明らかにする。 以上により、有限温度強相関電子系において現れる特異な相転移現象とその実験観測可能性を議論する。これらの成果を学術論文にまとめ、国内外で発表する。また、博士の学位論文を執筆する。
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Research Products
(8 results)