2019 Fiscal Year Annual Research Report
分子スペクトル線観測に基づく銀河系中心巨大星団の探査
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19J10863
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
辻本 志保 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 電波天文学 / 銀河系中心 / 分子雲 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は銀河系中心分子層(CMZ)内で発見された二つの多重膨張シェル領域(銀経+1.3度, -1.2度領域)が、数千万年前に誕生した星団内で発生した複数回の超新星爆発により、圧縮・加速されて形成されたとするmolecular bubbleシナリオを検証し、銀河系中心部における星団形成のメカニズムを調べることを目的としている。 本年度は、これら銀経+1.3度, -1.2度領域を含むCMZ全体を複数の分子輝線で観測する野辺山45 m望遠鏡のラージ・プログラムの初年度にあたり、衝撃波領域や高密度分子雲をトレースする分子輝線による観測およびデータ解析を行った。その結果、銀経+1.3度, -1.2度領域において高密度ガスや衝撃波が多重シェルの外殻に沿って分布し、シェルと共に膨張していることが明らかとなった。またこれまでに取得済みのデータも含めて複数の分子輝線による輝線強度比の空間・速度分布を得た。これにより解離性衝撃波のトレーサーである一酸化ケイ素/シアン化水素強度比の銀経+1.3度, -1.2度領域における値は、CMZの典型的な分子雲の値と比較して、より高い傾向にあることが明らかとなった。また温度や密度の指標となる一酸化炭素分子輝線の強度比は、銀経+1.3度内で膨張シェルに付随する分子雲が支配的な高速度帯や領域北部において高い値を示し、膨張シェルが一般の分子雲より高温・高密度状態にあることが示唆された。これらの結果は、銀経+1.3度, -1.2度領域において局所的な爆発現象が発生し、同領域の膨張シェルが圧縮・加速されたとするmolecular bubbleシナリオを支持するものである。 銀経+1.3度, -1.2度領域のようなCMZの外縁部での星形成や大質量星団の検出はこれまでにあまり例がなく、この領域の理解はCMZの星形成の理解を進める上で重要である。以上は現在、論文発表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
野辺山ラージ・プログラムで得られたデータの解析が順調に進み、また得られたデータの質が非常に高かったため、予てより研究対象としていた銀経-1.2度領域のみならず、銀経+1.3度領域についても、分子雲の分布・運動に加えて物理状態など重要な情報を得ることができ、期待していた通りに爆発現象の介在が示唆された。またこの結果をもとに国際会議を含む複数の学会・研究会において研究成果発表・議論などができ、様々な知見を得ることができた。 以上より、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の結果をまとめた論文を現在執筆中であり、まずはこの論文を急ぎ提出・発表する予定である。また次年度はラージ・プログラムの最終年次にあたるため、観測を完遂し、得られたデータを解析することも必要である。本年度に観測した分子輝線の同位体分子輝線による観測も行われるため、高密度な分子雲の物理量をより正確に算出できるようになることが期待される。 加えて、これまで銀経+1.3度, -1.2度領域に対しては分子輝線観測からmolecular bubbleシナリオの検証を行なってきたが、今後は、星団の直接検出などを目指して赤外線観測などの観測提案も適宜行なっていく予定である。より細かい分子雲構造に迫る目的で、ALMAなど干渉計への観測提案も計画している。
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