2019 Fiscal Year Annual Research Report
感情制御の他者への波及効果による抑うつ伝染の解明と解決
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19J10931
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
小林 亮太 広島大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 感情制御 / 対人的感情制御 / 再評価 / 気晴らし / 抑うつ / 精神的健康 |
Outline of Annual Research Achievements |
ネガティブな感情を低減,緩和することを感情制御という。感情制御についてはこれまで,自分の感情を自分自身で調整していく過程に焦点が当てられることが多かったものの,近年では他者の観点を取り入れた感情制御研究が増加している。本研究では前者だけでなく,後者の考え方も取り入れることで,感情制御の新たな可能性について検討を行う。 近年では,抑うつ傾向の高い者がいる集団において,抑うつ傾向が高い者本人だけでなく,その周囲の者も抑うつ傾向が高まること (抑うつ伝染) が報告されている。本研究ではこうした現象のプロセスを感情制御,特に自身の感情制御が他者の感情制御に影響していくこと (感情制御の他者への波及効果) の観点から解明し,改善方策を提案することを目的としている。 2019年度では,大学生の同性の友人のペアを対象とした2時点の縦断データについて解析を行い,先行研究で検討されてこなかった適応的感情制御方略においても,波及効果が生じることを示した。具体的には,再評価,あるいは気晴らしという感情制御を行いやすい者においては,そのペアも同様に再評価・気晴らしを実行する傾向が高いことが確認された。こうした結果については,International Society for Research on Emotion 国際学会において報告を行っている。 また,こうした研究と関連して,自身の感情の制御と「他者への」感情の制御の関係性の検証や,他者への感情制御が対人関係に及ぼす影響についても検討を行った。こうした結果については,感情心理学会にて発表を行っており,現在,論文を投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,ペアデータ研究を進め,他者への感情制御に関する学会発表を行った。また,現在,論文を投稿準備中である。さらに,そうした研究の中で得られた感情制御が対人関係満足に及ぼす影響にについて知見を論文にまとめ,現在投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の結果,感情制御を使用する傾向が高い者と一緒に過ごす機会の多い者も,感情制御の傾向が高くなる (i.e., 感情制御の他者への波及効果) という結果が示されている。また,そうした感情制御が精神的健康に関与することが明らかになった。 本年度は,以下の2点について検討を行う。まず1点目は,感情制御への介入を行うことで,他者への波及効果を経て,ペア (あるいは集団) の精神的健康が改善するか検討することである。ペアの片方に対して,先行研究を参考に (e.g., Mennin & Fresco, 2013),感情制御を促進する介入を実施する。そして,介入前を含め,5時点の縦断調査を実施することで,介入を受けた者だけでなく,そのペアの感情制御傾向が高まり,精神的健康が促進されるか検証する。 2点目に,他者への波及効果を「感情制御能力」の観点から検討する。これまでの研究では,感情制御を日々の生活の中で行う頻度 (i.e., 感情制御傾向) にのみ焦点を当ててきた。しかし,他者への波及効果が観察,あるいは言語伝達による学習を介して生じている可能性を踏まえると,どれくらい感情制御を上手くできるか (i.e., 感情制御能力) にも影響すると考えられる。そこで,介入研究に合わせて,感情制御能力を測定することで,この点について検討を行う。 ただし,新型コロナウイルス状況下において,これまでとは他者との関わり方が大きく変容していること,また,対面での研究が推奨されないことから,実験実施の延期,あるいは,状況要因を考慮した研究に切り替える可能性もある。
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