2019 Fiscal Year Annual Research Report
連続的不斉マイケル反応を利用した多様な環骨格構築及びカルノシン酸の全合成
Project/Area Number |
19J10974
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
楳窪 成祥 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 不斉反応 / ドミノ反応 / ワンポット反応 / 有機触媒 / ポットエコノミー / タイムエコノミー / プロスタグランジン / マイケル反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
1957年、プロスタグランジン類の発見以来、その多様かつ重要な生物活性からプロスタグランジン誘導体の合成研究が世界中で行われ、優れた薬理作用と安定性を併せ持つ医薬品が開発された。Coreyラクトンはプロスタグランジン誘導体医薬品の合成において重要な中間体である。Corey、Stork、Woodwardなど様々な研究グループによってCoreyラクトンの合成法が報告されたが、いずれも7ポット以上を要する。一方、申請者は有機触媒を用いた連続的不斉マイケル反応による多様な環骨格構築方法を開発し、それを有用化合物の合成に展開することを研究目的としていた。そこでCoreyラクトンの連続する3つの不斉点を一挙に構築可能な、有機触媒を用いたα,β-エノンとα,β-エナールとの連続的不斉マイケル反応を開発した。その結果、3つの連続する不斉点を完璧に制御し、収率90%、>99% eeで望みの立体化学を有する五員環中間体を単一異性体として得た。この反応を、ワンポット反応を積極的に活用することで精製工程および廃棄物の極小化を目指すポットエコノミーを指向したCoreyラクトンの合成へ展開し、市販の原料からワンポット、総収率50%、>99% eeで合成した。さらに、有用有機化合物を短時間で合成することで、エネルギーコストの低減かつオンデマンドな供給を目指すタイムエコノミーを指向して最適化を行ったところ、152分で合成することを達成した。本合成はこれまで報告されている例の中で最も反応容器数が少なく、かつ迅速な供給方法である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究開始時は有機触媒を用いたα,β-エノンとα,β-エナールとの連続的不斉マイケル反応によって多置換六員環化合物が得られるものと想定していたが、得られた化合物構造決定を行なったところ、予期に反して多置換五員環化合物が高収率・高立体選択的に得られた。しかし、得られた化合物に含まれる不斉点はCoreyラクトンの連続する3つの不斉点を一挙に構築可能であることが判明した。そこで、開発した連続的不斉マイケル反応をCoreyラクトンの効率的合成へ展開したところ、ワンポット・152分合成を達成した。本合成はこれまで報告されている例の中で最も反応容器数が少なく、かつ迅速な供給方法である。現在、見出した連続的不斉マイケル反応を利用して、全世界で広く用いられている重要な緑内障および高眼圧症の治療薬であるラタノプロストや血小板凝集阻害作用・血管拡張作用を示すクリンプロストなどの重要医薬品の効率的合成も達成し、これについて論文を執筆中である。今回見出した新規反応を利用することで、これまで市販品から8ポット・収率4%で合成されていたラタノプロストを7ポット・収率25%で合成することを達成した。また、これまで市販品から9ポット・収率2%で合成されていたクリンプロストを7ポット・収率17%で合成することを達成した。一方、申請者の研究目的は有機触媒を用いた連続的不斉マイケル反応による多様な環骨格構築方法を開発である。そこで、今後は多置換五員環化合物以外の環骨格を構築する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方針としては有機触媒を用いたα,β-エノンとα,β-エナールとの連続的不斉マイケル反応によって光学活性な多置換六員環化合物を得る条件を見出す予定である。これまでの研究によって、α,β-エノンのβ位に電子求引基を導入することで多置換五員環化合物が高収率・高立体選択的に得られることが判明している。そこで、今度はα,β-エノンのα位に電子求引基を導入することで多置換六員環化合物が高収率・高立体選択的に得られるのではないかと考えている。また、α,β-エノンとして3-Oxo-1-cyclohexene-1-carbonitrileを用いることで多置換ビシクロ[2.2.2]オクタン骨格が高収率・高立体選択的に得られると考えている。加えて、α,β-エノンとしてEthyl (E)-2-(2-oxocyclohexylidene)acetateを用いることで多置換ビシクロ[3.2.1]オクタン骨格が高収率・高立体選択的に得られると考えている。これらの反応を開発することによってカルノシン酸をはじめとする有用有機化合物のポットエコノミーかつタイムエコノミーを指向した効率的合成方法の開発ができるものと考えている。これらの合成を達成した後、共通中間体から多様な類縁体を合成可能なダイバージェンスな手法へ展開する予定である。このダイバージェンスな手法が達成された場合、天然から合成することが困難な類縁体を合成によって容易に供給することができる。
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Research Products
(5 results)