2019 Fiscal Year Annual Research Report
シグナル伝達ダイナミクスの一細胞計測と数理解析による細胞応答決定メカニズムの解明
Project/Area Number |
19J11040
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉澤 亮 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | 細胞内シグナル伝達 / 1細胞計測 / 1分子計測 / 受容体 / MAP キナーゼ / システム生物学 / シグナル伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
ErbB/HERシグナル伝達ネットワークは、複数のシグナル伝達経路の経路内、あるいは経路間のタンパク質どうしが複雑に影響し合いながらシグナル量や方向を制御することで多様な細胞応答に関わっている。ErbBシグナル伝達シグナル伝達ネットワークの主要な経路であるMAPK/ERK、PI3K/AKT経路内の複数のシグナル伝達タンパク質の応答を、生細胞内において同時計測する系を確立した。これら経路内から任意の二種類のシグナル伝達タンパク質を選択し、それぞれをHalo-tag (TMR)とGFPで蛍光標識を行ったプローブを作成し、ヒト由来乳がん培養細胞であるMCF7細胞内にトランスフェクションを行い共発現した。 細胞を飢餓状態にした後に成長因子であるHeregulin (HRG)で刺激を行い、全反射蛍光顕微鏡を用いて経時計測を行った。その結果、MAPK/ERK 経路の上流タンパク質であるSHCとGrb2はどちらも刺激後に細胞質から細胞膜へと移行し、細胞膜上分子数の増加が観察された。しかしながら刺激に対する応答の時間変化は異なっておりSHCは持続的に膜局在したのに対して、Grb2は一過的に膜局在した。また同一細胞内におけるSHCとERKの反応の時間変化には正の相関関係が見られたが、Grb2とERKの反応の時間変化には顕著な相関関係は見られなかった。このことからSHCの持続的な膜局在は、ERKの持続的な核局在に影響を与えており、SHCはERKの時空間的な応答の調節に重要な役割を果たしていることが考えられた。またその応答制御にはPI3K/AKT経路とのクロストークが関わっていることを見出した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ErbBシグナル伝達ネットワークにおける複数のシグナル伝達タンパク質の、刺激に対する反応の時間変化を細胞内で同時計測し、ネットワークの上流と下流の反応の時間変化の関係性を解明することを目的としている。今年度はまず全反射蛍光顕微鏡によりMAPK/ERK経路の上流のアダプタータンパク質であるSHCとGrb2、下流タンパク質であるERKの反応の時間変化を一細胞レベルで同時計測することに成功し、ネットワークの上流と下流のシグナル伝達の関係性について明らかにした。このことはシグナル伝達ネットワークがどのようにシグナルを制御し細胞応答を決定しているのかというメカニズムの全貌を明らかにする上で重要な発見であり、より詳細な解析を進める上での糸口になると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、さらにPI3K/AKT経路についても詳細に調べることで、MAPK/ERK経路とのシグナル伝達の時空間的な関係性、シグナルの持続時間の制御機構、方向性決定などについても明らかにしていく。加えてこれらのデータからネットワークを推定し、数理モデルを用いて検証することでシグナル伝達決定と細胞応答決定メカニズムについても解明する予定である。
|
Research Products
(3 results)