2019 Fiscal Year Annual Research Report
独立同分布でないランダム性を持つ複素力学系に関する三つの解析的手法による研究
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19J11045
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
渡邉 天鵬 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ランダム複素力学系 / 雑音誘起現象 / リアプノフ指数 / マルコフシステム / 平均安定 |
Outline of Annual Research Achievements |
多項式や有理関数などの,複素解析的関数に関するランダム力学系を考察し,決定論的な力学系とランダムの場合との違いに焦点を当てて研究を行った.特に,独立同分布のランダム性を持つ場合に関する先行研究を,独立同分布とは限らないより広いクラスのランダム力学系(マルコフシステムと呼ぶ)へと拡張することに成功した.具体的には,平均安定と呼ぶべきシステムについて解析し,任意の初期点に関してリアプノフ指数がほとんど確実に負になることを示した.このような現象は決定論的な力学系では起こらず,ランダム力学系特有であるという意味で雑音誘起現象と呼ばれる.また,そのような平均安定なシステムが,多項式のマルコフシステム全体の空間において稠密に存在することを示した.そして,有理関数のマルコフシステムに対しては,平均安定なものと,位相的な意味でカオス的なものとの非交和が稠密であることを示した.当初の目標と比較すると,歪積写像から定義される,より一般のランダム力学系へと拡張することがこれからの課題である. 歪積写像ではなくマルコフシステムの話に戻ると,実一次元のパラメータを持つシステムの族に着目し,その分岐を研究するための基本的な方針が今までの研究により確立されたといえる.このような族に対し,測度論的な意味でほとんど全てのパラメータに対するシステムが平均安定であるという結果を得た.これは独立同分布ランダム力学系に対しても新しい結果であり,本研究の目的である「ランダム力学系理論の深化」を着実に実行している. 以上の結果を整理しながら,論文として現在執筆中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究の目的」で設定していた,独立同分布とは限らないランダム力学系に関する研究を行なった.そのような力学系の例として研究代表者が以前定義したマルコフシステムについて,安定性に焦点を当ててさらなる解析を試みた.当初の予定であった一般の歪積写像には至らなかったものの,多項式のマルコフシステムと有理関数のマルコフシステムに関して,前者では平均安定なものが通有的に存在し,後者では平均安定なものと(位相的な意味での)カオス的なものとを合わせると通有的であるという結果を得た.これらは決定論的な力学系では起こらないランダム力学系固有の現象という意味で,雑音誘起現象と呼ばれる.決定論的力学系とランダム力学系との違いに焦点を当てるという研究目的を果たしている. 安定性に関する結果を6件の研究集会にて報告し,他の研究者と意見交換を行なった(うち国外の研究集会2件,国内の集会4件).また,平均安定性に関して手応えがあったため当初の計画を変更し,実一次元のパラメータを持つ族に関する分岐の研究に着手した.共同研究者と意見交換を行うことで,わずかな例外を除いてほとんど全てのパラメータが平均安定であるという結果を得た.現在は分岐に関するこの結果を,2次多項式族の決定論的力学系へと応用できないか模索中であり,今後の発展が望まれる. 以上の平均安定性,及び分岐に関して得られた結果をまとめて,研究代表者が論文を執筆中である.そのプレプリントはまもなく完成する予定であり,本研究課題の計画を順調に遂行しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
平均安定なシステムが十分多く存在するということは確認できたが,それを補完する「位相的な意味でカオス的な力学系」がどれほど存在するかについては間接的な結果しか得られていない.カオス的なものがどれだけ存在するか,そのリアプノフ指数の正負はどうか,といったことが今後の課題である.これらに対して,決定論的力学系でよく知られている,リーマン球面全体をジュリア集合に持つような関数に着目しつつ,エルゴード理論を用いた解析的方策をとる.特に,エルゴード的な関数やラッテ写像が重要であると思われる. また,実一次元のパラメータを持つシステムの族に関して,平均安定でないものは高々可算個しかないことが分かった.これをさらに発展させると,例外的なものは有限個しかないことが予想される.この予想に関連して研究を行うことが今後の目標である.そのためにも具体例の解析は必要不可欠であり,それが主要な方策である.加えて,具体例の解析から2次多項式族に関連した結果が得られる可能性が高い.この研究は難解であると思われるが,学術的価値が高く,かつ決定論的力学系へランダム力学系を応用することが期待できる.これらの事情を踏まえて,2次多項式族のランダム力学系を具体的かつ詳細に解析することが今後の目標である. さらに,平均安定でない,カオス的なランダム力学系に対してリアプノフ指数を評価できれば,「ランダム力学系におけるマンデルブロ集合の類似」をコンピュータで描画することが可能になる.前述の二つの方策を同時に推進することで,決定論的力学系とランダム力学系との相違・類似をより深く理解することに繋がると研究代表者は考えている.
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