2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19J11126
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
坂田 雅之 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | 環境DNA / 近過去復元 / 琵琶湖 / 堆積物 / 魚類 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では生物から環境中に放出されたDNAである環境DNAを検出する環境DNA分析手法を用いて、過去の水中堆積物に含まれる魚類のDNAを検出することで、魚類の近過去復元を行うことを目的としている。 昨年度は8月に調査地である琵琶湖にて堆積物柱状試料を重力式コアサンプラーにより採取し、過去の堆積物を採取した(長さ約30cm)。採取した堆積物試料は1cmスライスに分けられそれぞれからDNAの抽出、クロロフィルaの濃度測定、帯磁率の測定を行った。サンプリングに並行してDNAの抽出法の改善も行い、既存の手法よりも感度を向上させることに成功している。昨年度の過去堆積物からのDNA抽出には改善した手法を適用した。琵琶湖に生息するアユとイサザを対象にリアルタイムPCR法を用いて過去のDNAの検出を試みたところ、両者において数十年以上の時間スケールでの検出に成功した。また、検出系が設計されていなかったため、イサザについては種特異的な検出系を作成して適用を行った。検出されたDNA量は時系列解析に基づきその量変動を推定した。アユについては断片的ではあるが過去のCPUEの記録が存在するため、本研究で得られたDNA量の変動と、CPUEの変動を比較したところ、有意な正の相関が得られた。この結果は、過去の堆積物からDNAを検出し、その変動を観測することで過去の魚類の生物量の変動を復元できる可能性があることを示唆している。これまでの近過去復元はプランクトン類などの遺骸が堆積物中に残りやすい分類群に対してはよく行われているが、魚類のような遺骸の残りにくい種に対しての実証はほとんどなく、本研究によって新たな近過去復元の可能性を示すことに成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
琵琶湖で採取した過去柱状堆積物試料から得られたDNAを用いて、数十年以上の時間スケールで魚類のDNAの検出に成功した。得られたDNA量から推定されたDNAの変動と記録されていたCPUEの変動を比較したところ、有意な正の相関が得られたため、過去堆積物から得た堆積物環境DNAは過去の生物量の変動を復元できる可能性を示唆した。また、DNA抽出法の改善は既存の手法からサンプル量の増加、DNA回収率向上試薬を加えることによって、検出感度を高めることに成功している。本成果については現在原著論文を執筆している。本研究を遂行するにあたり、不足していた検出系の開発については、琵琶湖に多く生息するイサザを対象に、ミトコンドリアDNAのシトクロムb領域に種特異的な検出系を作成することを試みて野外サンプルでの確認も含めて確立を終え、既に過去の堆積物試料からの解析にも適用している。 本研究は2つのテーマをもち、そのひとつは、過去堆積物からの環境DNA検出と整合性の検証であるが、本テーマに関しては、過去のDNAの検出に成功し、その量的変動と過去の生物量の変動間に整合性が確認された。したがって、本研究は順調に進捗している。 一方で、生息はしているが検出されない種も存在するため、今後のDNAの検出については異なる領域・増幅長を対象にした検出系を用いるなどの対応を試みる予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画通り、以下の様に進行する。 ・過去堆積物からの環境DNA検出と整合性の検証については概ね完了しているが、より多くの種を対象として、検出の程度を比較することで、検出パターンが魚種間でどの様に異なるのかを解析し、今後の研究発展のためにより効率の良い検出手法の検討を試みる。 ・魚類相変遷の観測については、魚類網羅的検出系を用いて、昨年度抽出したDNAから過去の魚類群集をまとめて復元することを試みるとともに、外来魚侵入や護岸工事などの前後で魚類相にどの様な変化が生じたのかを観測することを目的とする
|
Remarks |
申請者のHPと所属する研究室のHP
|
Research Products
(6 results)