• Search Research Projects
  • Search Researchers
  • How to Use
  1. Back to project page

2019 Fiscal Year Annual Research Report

A Study of Canonization of Meiji kabuki -focusing on katsureki-mono and matsubame-mono-

Research Project

Project/Area Number 19J11221
Research InstitutionOsaka University

Principal Investigator

金 智慧  大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)

Project Period (FY) 2019-04-25 – 2021-03-31
Keywords明治歌舞伎 / 活歴物 / 松羽目物 / 古典化
Outline of Annual Research Achievements

本研究の目的は明治時代に成立した活歴物・松羽目物の検討を通し、現代歌舞伎の形成過程を究明することである。現在進行形の演劇であった近世歌舞伎がいわゆる古典芸能として定型化したのは明治以降のことであり、以上に取り上げた二つのジャンルは「古典化」現象と密接に関わっている。活歴物は九代目団十郎によって提唱されたものの、彼に作品を提供した作者と活歴物を批判する学者の間に様々な形態の歴史劇が生まれた。一方、松羽目物は能楽を取り入れた舞踊劇であるが、歌舞伎の高尚化や役者の家柄の権威付けのために利用された。このように、活歴物・松羽目物が明治以降の時代物・所作事に残した痕跡は多く、各作品の分析と受容様相を考察することで、現代歌舞伎に至るまでの過程を明らかにすることを目標にしている。
以上の目標に従い、今年度は三つの研究を行った。第一は河竹黙阿弥作「夢物語盧生容画」の考察であり、第二は福地桜痴作「十二時会稽曽我」の再評価である。それぞれ明治十年代と二十年代に創作された活歴物で、両方とも団十郎のために書かれたものではあるが、作者の意図により作風はかなり異なっている。活歴物の作風の変化、そして団十郎の転向と演劇改良運動といった一連の過程を歌舞伎の「古典化」現象と照らし合わせて今後研究を深めていきたい。第三は、五代目尾上菊五郎の新古演劇十種の検討である。明治二十年代以降、歌舞伎界の保守化とともに浮上したのは、新古演劇十種(尾上菊五郎家)や歌舞伎十八番(市川団十郎家)などのお家芸の選定である。このような動きは役者たちが代々に受け継がれてきたお家芸を権威づけるために試みられたものであり、歌舞伎界を担う中心的な家系としての自負を表明するものであった。すなわち歌舞伎の悠久な歴史を強調することで、新派のような現代演劇と一線を画す「伝統」芸能として改めて位置づけようとしたのである。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

採用時に研究計画として三つの課題を取り上げたが(①活歴物をめぐる演劇理念の検討、②福地桜痴の活歴物の分析、③松羽目物の再考察)、研究実績の概要に掲げた三つの成果はそれぞれの課題に属するものである。具体的に言うと、黙阿弥作「夢物語盧生容画」の考察では九代目団十郎と作者の対立に焦点を当て、〈改良〉と〈懐古〉という明治期社会の大きい流れを汲み取ろうとした。団十郎(渡辺崋山役)は演劇改良を支持した当代の知識人の庇護のもと、彼が理想とする文人及び侍としての主人公を再現したが、一方で黙阿弥は左団次(高野長英役)に世話物的演技をさせることで、江戸懐古の意識をあらわにした。本作からは歌舞伎界が本格的に「古典化」に乗り出す前の状況について窺うことが可能である。
なお、桜痴作「十二時会稽曽我」の再評価では、黙阿弥と入れ替わるかたちで、多数の活歴物を創作した桜痴の一作品を取り上げた。本作には西洋演劇と日本演劇の長所を融合する考え方や作劇における舞台演出を重視した見解が見られるなど、桜痴自身の改良観を踏まえた工夫が窺える。このような桜痴の工夫は日本演劇の特質を理解せず、専ら西洋劇風への刷新を試みた当時の改良論者とは異なる、漸進的かつ現実的な改良方針であった。
最後に五代目菊五郎の新古演劇十種の検討に関しては、立役である菊五郎が尾上家を代表する芸として、主に鬼女・精霊の登場する演目を選定した理由を考察した。それには女方の役割が様々な方向へ拡大し、やがて女方と立役の境界が崩れてしまった歴史上の変化が前提としてあった。そのような時勢に乗り、尾上家先祖は立役でありつつ、従来の理想的な女性像に相反する、グロテスクで怪奇性に富む悪婆役で女方の新境地を開いた。このように尾上家の歴代役者を概観してみると、五代目が立役でありながら様々な女方役をこなしたのは、先代譲りの芸の命脈が保たれた結果であると考えられる。

Strategy for Future Research Activity

本年度は主として二つの課題に取り組む計画を立てている。第一は昨年度に引き続き、福地桜痴および依田学海、坪内逍遥など文学者による改良脚本の検討である。今までの通り、作者が自らの改良論を論じた言説を分析し、それに基づき、各作品を読解していく方向で研究を行う予定である。対象作者と作品としては、演劇改良会の発足を機にして書き下ろされた依田学海・川尻宝岑合作の「吉野拾遺名歌誉」(明治19年)や坪内逍遥が『我が国の史劇』で示した史劇改良論を基盤に創作した「桐一葉」(明治27~28年)などが今後の研究対象になると考える。
第二は、市川団十郎家の歌舞伎十八番・新歌舞伎十八番の考察とともに、追善興行の歴史に関して調査することである。五代目菊五郎の新古演劇十種を調査したところ、新古演劇十種の出発点となった「古寺の猫」「土蜘」が祖父の三代目菊五郎の追善興行(二十三回忌・三十三回忌)に連続して上演されたことに気付いた。菊五郎は新古演劇十種を通して、自分が受け継いだ先祖の芸風、そして歌舞伎界を代表する家門としての自負を表明したわけであるが、その際、とりわけ追善興行のかたちを取り入れたのである。これと類似した事例として七代目団十郎の「勧進帳」が挙げられる。周知の通り、このような追善興行の形式は長らく存在したものである。しかし、同じく追善興行であっても七代目団十郎の舞台と五代目菊五郎のそれは、時代背景や当時の歌舞伎界の状況等によって位置づけが異なってくる可能性もあり得る。そこで、今後は江戸・明治時代に行われた歌舞伎の追善興行の事例を網羅し、追善興行の持つ意味の変遷、そして明治期の「古典化」現象との関わりについて考察を深めていきたい。

  • Research Products

    (6 results)

All 2020 2019

All Journal Article (2 results) (of which Peer Reviewed: 2 results) Presentation (4 results) (of which Int'l Joint Research: 2 results)

  • [Journal Article] 「夢物語盧生容画」考――明治歌舞伎の〈改良〉と〈懐古〉2020

    • Author(s)
      金 智慧
    • Journal Title

      『演劇学論集』

      Volume: 70 Pages: 未詳

    • Peer Reviewed
  • [Journal Article] 福地桜痴作「十二時会稽曽我」考――演劇改良への実践的試み2020

    • Author(s)
      金 智慧
    • Journal Title

      『語文』

      Volume: 114 Pages: 未詳

    • Peer Reviewed
  • [Presentation] A Compromise between Japanese and Western performances2020

    • Author(s)
      Jihye Kim
    • Organizer
      SEC-AAS 2020
    • Int'l Joint Research
  • [Presentation] Shinko Engeki Jisshu by Onoe Kikugoro V and the History of Onnagata2020

    • Author(s)
      Jihye Kim
    • Organizer
      大阪大学・ハーバード大学大学院生交流会
  • [Presentation] 「夢物語盧生容画」考―明治歌舞伎の〈改良〉と〈懐古〉の狭間―2019

    • Author(s)
      金 智慧
    • Organizer
      日本演劇学会全国大会
  • [Presentation] Shohon-utsushi : Recapturing Kabuki Stage through Illustration and Text2019

    • Author(s)
      Jihye Kim
    • Organizer
      AAS-in-Asia 2019
    • Int'l Joint Research

URL: 

Published: 2021-01-27  

Information User Guide FAQ News Terms of Use Attribution of KAKENHI

Powered by NII kakenhi