2019 Fiscal Year Annual Research Report
Research of superconducting mechanism of unconventional superconductivity by ultrahigh resolution soft x-ray laser-based angle-resolved photoemission spectroscopy
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19J11310
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋本 嵩広 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 鉄系超伝導体 / BCS-BECクロスオーバー / レーザー角度分解光電子分光 / 極低温 |
Outline of Annual Research Achievements |
弱い引力相互作用による超伝導と、強い引力相互作用による超流動の間のBCS-BECクロスオーバーについて調べるために、極低温超高分解能レーザー角度分解光電子分光を用いて鉄系超伝導体FeSe1-xSxの超伝導状態での電子構造を研究してきた。xを大きくすることで、超伝導相でのブルリアンゾーン中心のホールバンドの分散形状が下凸(BCS的)から上凸(BEC的)に変わっていくことを観測した。また、x = 0.21では超伝導転移温度よりも高温から状態密度にギャップ(擬ギャップ)が開くことを観測した。これらは、xを大きくすることでBCS状態からBEC状態に変わっていくことを示す証拠である。BCS-BECクロスオーバーの制御パラメータとしては、超伝導ギャップとフェルミエネルギーの比が用いられてきた。驚くべきことに、BCS-BECクロスオーバーとこの制御パラメータの振る舞い方がシングルバンドの場合の計算と比べて実験結果が逆であることが明らかになった。この理由として、超伝導ギャップを観測しているホールバンドと、ブルリアンゾーン中心にフェルミ準位より低エネルギー側に存在するもう一つのホールバンドの相互作用が考えられる。実際、xを大きくすることで二つのバンドのエネルギー差は小さくなっていることが観測され、低エネルギー側のバンドが超伝導のペアリングへの関与が大きくなることでBEC状態が実現していると理解することができる。本研究は、固体電子系において初めてBEC超伝導状態を発見したものと言える。 上述の実験は7eVパルスレーザーを用いて行ったが、さらなる高分解能化を目指して大強度連続光5.8eVレーザーの開発を行った。短時間かつ超高分解能の測定が可能になり、超伝導ギャップの小さい超伝導体など、これまでARPES測定が難しかったエネルギー領域の物性研究の道が開けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
FeSe1-xSxの実験は当初の計画以上のスピードで、予想以上の成果を得ている。擬ギャップまで示すBEC状態が観測されたこと、シングルバンドとは異なるメカニズムでBCS-BECクロスオーバーが起きていることを明らかにしたのは予想以上の成果である。極低温での微細な構造を調べる研究であるため難航が予想されたが、計画以上の進展度であり、早くも論文を投稿中である。当初は5.8eVレーザーの完成を待って実験を行う予定であったが、波数空間上の一点についてであれば既に安定している7eVレーザーを用いて組成依存性を十分議論可能であることが分かったのが大きな理由である。 x>0.17の正方晶相での超伝導ギャップ対称性を詳細に調べるために、5.8eVレーザーの開発も進めている。レーザーの種光の安定化により、出力レーザーの安定化に成功した。また、光学系の最適化によりレーザーのスポット径を100μm程度まで絞った。これらの改善より、Bi2Se3、FeSeなどの角度分解測定に成功した。 共同研究も積極的に行ってきた。FeSeの時間分解ARPES測定により、本物質のバンド構造に由来する特徴的な電子ダイナミクスを観測した。これらの研究については、本研究員は対象物質であるFeSeの専門家として実験への助言や議論を行った。本研究で主に用いてきたレーザーARPES装置は世界的に見ても高い極低温、超高分解能を誇るが、超高性能を達成するために装置が複雑になっており、取扱が難しい。本研究員はレーザーARPESの専門家として、本実験装置を用いた共同研究に実験的なサポートや助言、議論を通じて参加してきた。トポロジカル超伝導体関連物質である、ヘテロ構造(Bi,Sb)2Te3/Nbの超伝導の近接効果の抑制を実証している他、バルク単結晶において初めて、磁性層と超伝導層の積み重なった状態をEuSn2As2において実証した。
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Strategy for Future Research Activity |
5.8eVレーザーが実用可能になったので、実際の試料での実験を進めていく。5.8eVレーザーを用いると、7eVよりさらに短時間で効率的に1meV以下の高分解能の測定が可能である。FeSe1-xSxの正方晶相(x>0.17)で超伝導ギャップ対称性を調べる。具体的には、常伝導状態でフェルミ面を決定し、各波数点において超伝導相でのエネルギー分散曲線から超伝導ギャップを決定し、角度依存性を決定する。理論的には銅酸化物と同様のd波対称性が提唱されており、非従来型超伝導体の普遍的な性質が明らかになる可能性がある。 加えて、5.8eVレーザーを用いた共同研究を推進する。イリノイ大のT.C.Chiangグループとこれまで共同研究してきた(Bi,Sb)2Te3/Nbのようなトポロジカル絶縁体と超伝導体のヘテロ構造についても研究を進める。今後は新しいヘテロ構造試料の作製を依頼し、超伝導ギャップの温度・膜厚依存測定などを行うことが考えられる。例えば、超伝導体を変えることで、超伝導ギャップ対称性の制御が期待される。また、トポロジカル超伝導と、電子構造の回転対称性が破れて二回対称になるネマティック状態が共存すると示唆されているPbTaSe2の極低温での電子構造を調べる。
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[Journal Article] Massive Suppression of Proximity Pairing in Topological (Bi1-xSbx)2Te3 Films on Niobium2020
Author(s)
Joseph A. Hlevyack, Sahand Najafzadeh, Meng-Kai Lin, Takahiro Hashimoto, Tsubaki Nagashima, Akihiro Tsuzuki, Akiko Fukushima, Cedric Bareille, Yang Bai, Peng Chen, Ro-Ya Liu, Yao Li, David Flototto, Jose Avila, James N. Eckstein, Shik Shin, Kozo Okazaki, and T.-C. Chiang
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Journal Title
Physical Review Letters
Volume: -
Pages: -
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Photoinduced possible superconducting state with long-lived disproportionate band filling in FeSe2019
Author(s)
Takeshi Suzuki, Takashi Someya, Takahiro Hashimoto, Shoya Michimae, Mari Watanabe, Masami Fujisawa, Teruto Kanai, Nobuhisa Ishii, Jiro Itatani, Shigeru Kasahara, Yuji Matsuda, Takasada Shibauchi, Kozo Okazaki, Shik Shin
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Journal Title
Communications Physics
Volume: 2
Pages: 115(1-7)
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Presentation] Manifestation of the multiband nature in the BCS-BEC crossover of FeSe1-xSx2019
Author(s)
Takahiro Hashimoto, Yuichi Ota, Akihiro Tsuzuki, Tsubaki Nagashima, Akiko Fukushima, Shigeru Kasahara, Yuji Matsuda, Kohei Matsuura, Yuta Mizukami, Takasada Shibauchi, Kozo Okazaki, Shik Shin
Organizer
Spectroscopies in Novel Superconductors 2019
Int'l Joint Research
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