2019 Fiscal Year Annual Research Report
Effect of phase transition on adiabatic pumping in coherent transport region
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19J11360
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長谷川 雅大 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 量子ドット / 断熱ポンピング / 輸送 |
Outline of Annual Research Achievements |
量子ドット等の量子素子をナノスケールな熱機関として利用する事を考える上で、その輸送効率や熱効率を理解するためには、まず準静的な熱力学操作を素子に印加した場合の輸送を理解することが重要である。準静的な操作とは、十分にゆっくりとした操作で、常に量子素子が操作に対し十分に緩和して定常状態に落ち着いていると見なせる操作である。このため、熱力学操作が準静的であるとみなすためには、系が緩和する緩和時間よりも十分にゆっくりとした操作を考える必要がある。一般には、系の緩和時間は、系の特徴的なエネルギースケールによって決定する有限の量である。しかしながら、コヒーレント輸送領域にある量子ドット系において、この緩和時間が発散してしまうような相転移があることが知られている。これは、量子ドットがもつ量子準位とそれに接続された電子浴の量子状態が強く量子混成することで電子浴の伝導バンドから孤立した束縛状態が生じ、この孤立した束縛状態がもつ初期状態を覚えて熱化されない性質によって緩和時間が発散することによる。本研究では、このような緩和時間の発散がどのように現れ、断熱電荷ポンピングに影響するかについて調べた( Phys. Rev. B 100, 115411 及び Phys. Rev. B 100, 125420 )。 次に、量子ドットに出現する量子多体効果が、系の緩和時間にどのように影響するかについても調べた。近藤効果は量子ドット系において出現する量子多体効果の典型例である。近藤効果は近藤温度とよばれる転移温度よりも低い低温領域で出現する量子多体効果であり、近藤温度を超えるエネルギースケールの高周波の外場駆動を印加することは近藤状態を破壊し、系の緩和時間に重要な変化をもたらすと考えられる。現在、数値くりこみ群を用いて、近藤効果が断熱電荷ポンピング及び緩和時間に及ぼす影響を調べている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
量子回路上に作成されたLC共振を用いた回路調和振動子系を介した断熱駆動の範囲における熱輸送についての解析について、非平衡グリーン関数法を用いて、定式化を行った。現在、調和振動子系における緩和時間の発散現象について調べるべく、この定式化を用いて調べている。 また、並行してボゾン熱浴に接続された二準位系を介した熱輸送における断熱駆動の範囲の熱輸送についても解析を行った。二準位系の熱輸送は、近藤模型に写像することができ、数値くりこみ群による数値計算を用いて近藤模型の輸送を調べることで二準位系の輸送特性を調べることができる。現在、本研究において必要な物理量の計算を行うための数値くりこみ群のコードを独自に開発しており、既存の数値くりこみ群の計算結果と比較して、開発したコードの信頼性を確かめている。 以上から、本研究計画の1年目に設定した課題は概ね達成したものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、量子回路上に作成されたLC共振を用いた回路調和振動子系を介した断熱駆動の範囲における熱輸送についての解析について、緩和時間の発散について具体的に解析を続行する。定式化はすでに存在しているので、具体的に相転移が発生する特異点を調べ、その近傍での振る舞いを数値計算等を用いながら調べていく。 次に、二準位系を介した熱輸送について、数値くりこみ群による独自のコード開発を継続する。既存の数値くりこみ群の結果と整合する結果を得た後、二準位系の輸送を調べる上で必要な物理量を計算し、断熱駆動の範囲における熱輸送に及ぼす影響、特に孤立転移と呼ばれる相転移が緩和時間に及ぼす影響を調べていく。 さらに、この研究のさらなる発展として、準静的な操作として許される操作の速度は系の緩和時間によって上から抑えられることに注目し、準静的な操作の範囲内で熱や電荷をポンプする場合に達成できる輸送効率の上限を調べることが考えられ、特に、前述した緩和時間の発散がある場合に、輸送効率がどのように悪化していくかを明らかにすることを目的に研究を遂行する。
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