2019 Fiscal Year Annual Research Report
Quantum simulation of Kondo effect with two-orbital system
Project/Area Number |
19J11413
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小野 滉貴 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | 冷却原子 / イッテルビウム原子 / 光格子 / 量子シミュレーション / 近藤効果 / 量子輸送 / RKKY相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では光格子中の冷却原子という高い制御性を持つ系を用いた量子多体系の研究を行う。特にイッテルビウム(Yb)原子の基底状態1S0と準安定状態3P0を用いた2軌道系に着目し、光格子中の冷却原子を用いて軌道自由度を持つ量子多体系の実時間ダイナミクスを研究することで固体物質科学に新たな知見をもたらすことを研究目的とする。 本研究課題である近藤効果の量子シミュレーションを実現するためには(1)遍歴スピンと局在スピン、(2)局在・遍歴スピン間の反強磁性的交換相互作用が必要である。(1)について、ポテンシャル深さが電子状態に依存する光格子を導入することで1S0原子が遍歴し3P0原子が局在する系を実現した。また(2)については本研究課題採用以前にYbのフェルミ同位体171Ybの2軌道間スピン交換相互作用が反強磁性的であることを発見しており、171Ybを用いた2軌道系は近藤効果の量子シミュレーションのプラットフォームとして有望な候補とされている。 本年度では上で述べた遍歴・局在混合系の実現に加えて、遍歴1S0原子-局在3P0原子間のスピン交換ダイナミクスの観測に成功した。 また、上述の遍歴・局在混同系を用いた新たな展開として3P0原子が誘起する量子輸送の研究を開始した。低磁場に軌道型フェッシュバッハ共鳴を有するフェルミ同位体173Ybを対象とし、ラマン遷移を用いた1S0状態のスピンの制御技術を開発することにより、スピン自由度を用いた新奇な量子輸送現象の観測に成功した。 さらに、RKKY相関と呼ばれる遍歴スピンを介した局在スピン間の相関の検出に向けた装置の開発を開始した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近藤効果の量子シミュレーションに向けて、まず、魔法波長759 nmの2次元光格子とポテンシャル深さが電子状態に強く依存する波長650 nmの1次元光格子を組み合わせることで、1S0原子は1次元に遍歴し、3P0原子は3次元的に局在する系を実現することに成功した。そして、反強磁性的スピン交換相互作用を有するフェルミ同位体171Ybの量子縮退気体を上記の光格子に導入して2軌道間のスピン交換ダイナミクスの観測に成功し、近藤効果の観測に向けた第一歩を踏み出すことができた。これらの結果を国内外の関連理論研究者と議論を行い、この現象の理解を深めることに成功した。 また上述の遍歴・局在混同系を用いた新たな展開として、3P0原子が誘起する量子輸送の研究を開始した。まず、ラマン遷移を用いたコヒーレントなスピン操作技術を開発し、1S0原子スピンの重ね合わせ状態の生成を行った。そして、低磁場で軌道型フェッシュバッハ共鳴が存在するフェルミ同位体173Ybを対象として、スピンの重ね合わせ状態にある1S0原子が3P0原子との衝突によってスピン状態が反転することを観測することに成功した。これはスピン自由度を用いた新奇な量子輸送現象であると考えられ、国内の理論研究者と議論することで現象の理解を進めた。 さらに、RKKY相互作用による短距離磁性の観測を行うために、遍歴・局在混同系に用いている波長650 nm光格子の倍の波長である波長1300 nm光格子を組み合わせた光超格子を用意する必要があるので、長波長光格子の光学系の構築を行った。また、短波長光格子と長波長光格子の相対位相をロックするためのビートロックシステムの開発を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
スピン交換ダイナミクスおよび量子輸送の現象の理解を深めるために、局在3P0原子数、温度、磁場といったパラメータ依存性を系統的に測定し、これらの結果をまとめて論文を投稿する準備を進める。 また、これまでに開発した遍歴・局在混同系を用いてRKKY相関の検出に向けた研究を進める。本研究ではRKKY相互作用による短距離磁性をsinglet-triplet oscillation (STO)と呼ばれる方法を用いて行う予定である。STOとはスピン状態に依存した光勾配ポテンシャルを印可することで、スピン1重項・3重項間の振動を誘起し、短距離磁性が生成されているか確認する方法である。最終的なスピン状態は、隣接サイトをマージすることにより生成される、スピン波動関数の対称性を反映したバンド占有状態を識別することで検出可能であると考えられ、また、バンド占有状態は3P0原子間の非弾性衝突による原子ロスレートの差異により識別可能だと考えられる。以上のような測定手段を実現するためには、3P0原子のスピンに依存した光勾配光ポテンシャル用レーザー光源および隣接サイトをマージするための光超格子が必要である。今後はまず、この光超格子に量子縮退気体を導入して1S0-3P0状態間の超狭線幅光学遷移を用いて分光スペクトルを観測することで2つの光格子の相対位相を特定可能にし、隣接サイトをマージできるような相対位相に較正するシステムの開発を行う。また光勾配ポテンシャルについては3P0-3D1遷移に対応する波長1389 nmの光を用いることが適切だと考えられ、この光源の準備も進める。
|
Research Products
(6 results)