2019 Fiscal Year Annual Research Report
実空間・時間分解観測手法の確立による超伝導体中の量子渦の非平衡ダイナミクスの研究
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19J11421
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
黒川 穂高 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 超伝導 / 磁束量子 / 磁束量子ダイナミクス / 磁気光学法 |
Outline of Annual Research Achievements |
超伝導薄膜中の磁束量子ダイナミクスの微視的理解へ向け,電流印加に伴う磁束密度分布の変化を実空間・実時間でイメージングする.空間分解能1 μm,磁場分解能~5 Gを目指し,究極的には単一磁束量子レベルでのダイナミクスの理解を目標とする. 磁気光学顕微鏡とハイスピードカメラを組み合わせ,超伝導薄膜に印加したパルス電流による磁束密度分布の変化を測定する.パルス電流を用いるのは磁束密度分布の過渡的な変化を捉えるため,ならびに磁束量子の駆動に必要な数百mA~数Aの電流によるヒーティングを極力抑えるためである.超伝導体はセンサ膜上に直接成膜することで,磁束密度の広がりを抑え超伝導体直上の磁束密度測定を可能にする. 磁気光学センサ膜上に成膜したNbN薄膜に対して,1-2 A,1 ms,5 ms,20 msの三角波パルス電流を印加し10000-20000フレーム毎秒で磁束密度分布を測定することに成功した.ここで試料は到達温度10 K程度の冷凍機で冷却し,数mTの磁場を印加している.試料内部での磁束量子の運動は理論モデルに概ね一致した一方で,試料端での振る舞いは基本的なモデルと全く異なる結果が得られた.これは試料端におけるsurface barrierの効果を取り入れることで説明された.surface barrierは超伝導体中の電流分布を不均一化し,超伝導デバイスの応答の入力パワー依存性などの原因となる.そうしたsurface barrierの効果や,そのbarrierの大きさの直接的な観測を可能にする点で興味深い結果であり,超伝導体のクエンチ過程の理解にもつながるものである.得られた結果は現在論文として投稿中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的は,究極的には単一磁束量子レベルでのダイナミクスの観測である.今までに,ダイナミクス観測に必要になる時間分解測定の可能なハイスピードカメラを用いた実験を進めており,【研究実績の概要】に示したように磁束密度分布がパルス電流によって時間変化する効果を捉えることに成功している. 一方で,単一磁束量子の撮像,すなわち磁束密度を高い空間分解能で捉えることには成功していない.決定的な原因は今の所不明だが,カメラのノイズ,超伝導体と磁気センサ膜間の距離が広がってしまっていること,光学系の振動対策が十分でないことなどを原因として想定している.
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Strategy for Future Research Activity |
単一磁束量子ダイナミクスの観測に向けて,NbSe2,また磁気光学センサ膜上に直接成膜した100 nmのNb薄膜を用いて実験を進めている.冷却用の光学クライオスタットは昨年度途中に新しく導入したものであり,問題なく4-5 Kに冷却できることを確認した.現在のところ,カメラのショットノイズが期待される信号に対して大きく,また光学クライオスタットの微振動といった問題もあり単一磁束量子のイメージングには到っていない.Nbの数100 nmの厚膜化による磁束密度コントラストの強調を予定している.
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