2019 Fiscal Year Annual Research Report
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19J11459
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
吉田 辰哉 北海道大学, 理学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 流体力学的散逸 / 還元型原始大気 / 放射冷却 / 光化学反応 / 同位体分別 / 化学進化 / 衝突脱ガス / 原始太陽系星雲 |
Outline of Annual Research Achievements |
惑星集積期に形成された還元的原始大気の進化を明らかにするため,光化学過程と放射過程を考慮した多成分系における流体力学的散逸モデルを構築した.構築したモデルを原始火星大気に適用し大気散逸率を求め,赤外活性な炭素種分子の放射冷却によって大気散逸が著しく抑制されることを示した.求めた散逸率を基に火星の表層揮発性物質量と大気同位体組成を制約条件として過去に逆算する形で大気進化経路を求めたところ,~10 barの炭素種が流体力学的散逸によって散逸することが示された.これは地球や金星と比べて火星が表層揮発性物質量に乏しいことを説明し得る.また,流体力学的散逸による同位体分別によって火星大気のCが地球と比べて重い同位体に富んでいることも説明できた.先行研究の結果と異なり水素と炭素種間では分別が起きるため,水素散逸終了時点で炭素種が火星上に残されることが分かった.還元的炭素種が残されることで還元的環境が長期化し,それにより初期火星が温暖化し,さらに有機物生成が進んでいた可能性があることが示唆される.原始地球大気にもモデルを適用し,火星の場合と同じく大気散逸率は炭素種の混合比が増加するほど減少することを示した.但し,地球の方が重力が大きいため光化学反応の影響が移流の影響よりも卓越し放射冷却源分子が急速に光分解されることで,大気散逸率の減少度合いは火星の場合と比べて緩やかである.現在の地球表層揮発性物質量と大気同位体組成を制約条件として過去に逆算する形で大気進化経路を求めたところ,同位体分別の条件を満たすためには初期大気のH2の混合比は0.9より小さい必要があり,さらに水素と炭素種の初期大気圧の上限はそれぞれ ~30 barとなる.このことは原始惑星が星雲ガスが存在する期間内では地球サイズまで成長できなかったこと,地球集積期に炭素と窒素の大部分が地球内部に分配されたことを示唆している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
光化学過程と放射過程を考慮した多成分系における流体力学的散逸モデル構築に成功した.モデルを原始火星大気と原始地球大気に適用し,放射冷却過程と光化学過程が流体力学的散逸に与える影響,火星と金星における大気散逸の振る舞いの違いについて明らかにすることができた.また,求めた大気散逸率と現在の表層揮発性物質量,同位体組成データを元に原始大気の進化経路について新たなシナリオを提案した.原始火星大気進化についての論文を国際誌に投稿し,受理出版された.原始地球大気進化についても論文執筆を進めている.総合的におおむね順調とする.
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Strategy for Future Research Activity |
光化学過程に大気成分間の二体反応を組み込んだところ,イオンとの衝突反応により放射冷却源分子の分解が促進され,大気散逸率に大きな影響を与えることが分かった.今後は二体反応の影響を詳細に明らかにするとともに,炭素種分子組成が大気散逸率に与える影響を明らかにしたい. 大気散逸の数値解析と並行して大気光化学計算を進め,下層大気における大気酸化過程について明らかにしたい.昨年度に数値モデル構築の大部分を完了させており,年度初めから数値計算を開始させる.
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