2019 Fiscal Year Annual Research Report
運動習慣と精神病症状の関係のメカニズム解明:地域代表思春期コホートによる疫学研究
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19J11578
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森島 遼 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 運動習慣 / 精神病症状 / 疫学研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は思春期の運動習慣と精神病症状の関係を明らかにすることを目的とする。精神病症状(幻覚・妄想)は単独では精神疾患の診断に至らないが、後の統合失調症の発症と関わるため、精神保健学的な関心が高い。近年、精神病症状の病理として神経内分泌(HPA)活動異常によるストレス制御不全が注目されている。一方、運動習慣はHPA活動異常を抑制するという知見があり、精神病症状の改善効果が期待される。 思春期大規模疫学調査の参加者のうち、10歳および12歳時点で縦断的なデータのある2537名を解析対象とした。月齢のみ調整したモデルでは、10歳時点の運動習慣と12歳時点の精神病症状の関係はみられなかった。また、月齢、性別および10歳時点の精神病症状を調整した相加モデルでも有意ではなかった。月齢を交絡因子、性別および10歳時点の精神病症状を調整因子として投入した相乗モデルでは、運動習慣および10歳時点の精神病症状の交互作用項が、12歳時点の精神病症状と有意に関係した。すなわち、10歳時点で精神病症状をもつ者において、10歳時点の運動習慣は、12歳時点の精神病症状の報告を減少させる傾向にあった。以上の結果から運動習慣が精神病症状を寛解させる可能性が示唆された。 今後は、中・高強度の運動習慣の場合にさらに精神病症状の改善効果がみられるか、逆境体験を報告する児において運動習慣と精神病症状の関係が変化するか、といった仮説を検証していく予定である。具体的には、2020年度以降より新たに日本の中学生・高校生を対象とした学校ベースの疫学調査を実施し、これらの仮説を検証する。現在、S県私立中高協会(毎年約3,000名の保健健康調査が行われている)の協力が得られる予定であり、地域性、社会経済状況等の偏りに配慮した5,000名程度への調査実施が見込まれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
まず、研究計画の通り、既存の縦断研究のデータを用いて、思春期の運動習慣と精神病症状の関係を示した。近年のメタ解析から、運動習慣は精神病性障害群の精神病症状の改善に有効性が示されているが(Dauwan, 2016, Scihzophr Bull)、思春期における診断に至らない精神病症状を改善させるかは不明であった。この結果から、精神病の早期支援・予防を考える上でも、重要な介入戦略を提案し得る結果となった。 また、運動習慣と精神病症状の関係をさらに検証していくために、新たに疫学研究を立ち上げている。これにより、研究結果の再現性が担保されるか確認できる。また、2019年度に取り組んだ研究では、運動の強度や逆境体験の報告有無が検討できなかった。新たな疫学研究ではこのような項目をさらに追加して取り組むことで、運動習慣と精神病症状の関係について発展的な研究を行うことが可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、中・高強度の運動習慣の場合にさらに精神病症状の改善効果がみられるか、逆境体験を報告する児において運動習慣と精神病症状の関係が変化するか、といった仮説をさらに検証していく予定である。 近年、中・高強度の運動習慣は様々な健康アウトカムに有効であることが指摘されており、精神病性障害群の精神病症状の改善にも有効性が示されている(Dauwan, 2016, Scihzophr Bull)。また、運動習慣は小児期逆境体験を受けた者においては、精神病症状を減少させないかもしれない。近年の若年成人対象の疫学調査において、運動習慣が精神病症状リスク減少と関係したものの、小児期逆境体験に曝露された群においては関係がみられなかった(Crush, 2018, J Psychiatr Res)。しかしながら、先行研究では18歳未満の思春期対象の解析を行っておらず(Dauwan, 2016; Crush, 2018)、思春期の運動習慣と精神病症状の関係を検証する必要がある。 具体的には、2020年度以降より新たに日本の中学生・高校生を対象とした学校ベースの疫学調査を実施し、これらの仮説を検証する。現在、S県私立中高協会(毎年約3,000名の保健健康調査が行われている)の協力が得られる予定であり、地域性、社会経済状況等の偏りに配慮した5,000名程度への調査実施が見込まれる。東京大学大学院医学系研究科・医学部倫理委員会より倫理申請(2019271NI)が承認済であり、調査体制は整っている。
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