2019 Fiscal Year Annual Research Report
高強度レーザー場と高輝度X線ビームを用いた真空の巨視的構造の探索
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19J11586
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
清野 結大 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 素粒子実験 / 高強度レーザー / X線自由電子レーザー / X線 / 微細加工 |
Outline of Annual Research Achievements |
高強度な電磁場中では真空偏極の影響で真空の屈折率が変化する。その変化は真空中を伝播する光に対して真空複屈折と真空回折という効果を引き起こす。これら効果の観測による真空偏極の探索研究を行っている。本研究では高強度レーザーを使って真空の屈折率を変化させ、そこにX線自由電子レーザーの直線偏光のX線ビームをプローブする。真空複屈折と真空回折の効果は偏光軸や運動量の微小な変化として捕らえられるため、偏光子やスリット等で分離して検出する。 真空偏極の大きさはレーザーのインテンシティの2乗に比例するため、レーザーを回折限界のumサイズまで絞ることが重要である。形状の変化するデフォーマブルミラーを導入し、レーザー波面の位相を制御することで、レーザーを回折限界に近い2umまで集光することに成功した。 真空回折において最大のバックグラウンド事象となるのは、X線ビームの大角度成分とこれを除去するために設置されるスリットの端から生じる回折X線である。これを抑制するため、回折を起こさせずに大角度のX線を除去する、Si製の透過型X線光学素子であるshaperを発案し、開発した。このshaperをスリットの代わりに用いることで、約3桁のバックグランドの抑制に成功した。 2019年6月に、これら開発した要素を導入した真空回折の探索実験を、SACLAのX線ビームと0.6TWレーザーを用いて行った。有意なシグナルは発見できなかったが、真空回折事象に世界で初めて制限をつけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究により、レーザー波面の位相制御によるレーザー集光の技術の確立、バックグラウンド抑制用の光学素子(shaper)の開発に成功したため。レーザーの集光技術はレーザー強度によらないものを確立出来たので、今後のレーザーの高強度化に向け重要な進捗である。またshaperによりバックグラウンドを約3桁抑制出来たことも、観測に向け大きな進展であった。さらに本年度はこれら技術をテスト測定に導入し、実際の実験での運用に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は主に以下の2つの課題に取り組み、真空複屈折と真空回折の測定に必要な開発を行う。 (1)レーザーの高強度化 これまでは集光技術やX線との衝突アライメントなどの実験技術開発に注力するために0.6TWレーザーを使用してきた。これら技術の開発が終了したため、今後はSACLAの500TWレーザーを使用した光学系を作成する。光路の設計や集光鏡の作成、デフォーマブルミラーの導入などを行う。 (2)偏光子開発 バックグラウンド事象である偏光の変化しなかったX線を除去するため、X線偏光子の開発を行う。Si単結晶を用いた反射型の偏光子で、結晶面ごとに異なると予想される複屈折性が偏光子の性能(消光比)に与える影響について調査する。 以上の開発が終わり次第、X線ビームと500TWレーザーを組み合わせて世界最高感度での真空複屈折と真空回折の探索実験を行う。
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Research Products
(4 results)