2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19J11640
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田原 弘章 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 高次元時空 / 余剰次元 / 高次曲率項 / ラブロック重力 / ホルンデスキー重力 / 一般化ガリレオン |
Outline of Annual Research Achievements |
一般化ガリレオンと呼ばれる、重力の自由度に加えスカラー場の自由度が存在する、高階微分が存在しない一般的な重力理論を使い、曲率高次項が導入された高次元時空の非等方膨張を調べた。ここでは、空間の幾何をトーラスとし、各次元方向に独立なスケール因子を持つようなモデルを考えた。その結果、4次元時空ですでに確認されている、漸近的に非等方的宇宙になるアトラクター(非等方アトラクター)が、高次元時空にも存在することを確かめた。 観測と矛盾しないためには、余剰次元が小さく動かないことが必要で、そのための機構を非等方アトラクターを用いる観点から検討した。その結果、曲率高次項の係数が大きいと、余剰次元はより緩やかに動くことが明らかになった。係数を無限大に発散させると、完全に静止した余剰次元が実現する。これは、パラメータの階層性を課すことにより、観測による制限から逃れることが可能であることを示す。 小さな高次元時空でインフレーションを起こすとき、非等方アトラクターへ漸近する解では、余剰次元空間がほとんど膨張しない一方で、3次元空間だけが猛烈なスピードで膨張する。十分な時間が経過すると、余剰次元は小さいままで、3次元空間だけが十分に大きい宇宙が生じる。 標準的な宇宙史によれば、インフレーション後に宇宙は再加熱期、放射優勢期、物質優勢期、そして現在の宇宙項優勢期を順に迎える。この中で放射優勢期以外の期間においては、宇宙は上記の非等方アトラクターに漸近し続け、同様の議論が可能である。一方で、放射優勢期では非等方な圧力に支配されるため、この時の等方性の発展を個別に計算した。その結果、放射の圧力は特別な条件を満たし、余剰次元が完全に静止する解が実現することを見出した。このように、インフレーションによってコンパクト化された宇宙は、インフレーション後のすべての期間においてそのままコンパクト化され続けることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では特定の次元についての結果を求めることを計画していたが、パラメータ間の階層性によって解くべき式が簡単になり、任意の次元での結果を一般的に書き下すことができた。背景重力波などの観測量を求める計画であったが、一様的な発展が観測と矛盾しないように取ると、4次元の一般相対論の場合と同じ観測量が得られると判明した。異なる観測量を期待するには、当初想定していなかった現象である曲率高次項によるインフレーションなどの解析が必要であり、来年度これに取り組んだのちに、観測量を改めて計算する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究によって、曲率高次項によるインフレーションの可能性が示唆された。これは、今後の宇宙マイクロ波背景放射の偏光観測によって検証され得ると期待される。この現象の解析を通じて、このコンパクト化の機構が現実の宇宙に即しているかどうかを検討する。曲率高次項によるインフレーションは、時空が4次元よりも高次元であることが必要であるため、高次元時空の存在を検出するための方法と成り得る可能性がある。これらは、(一般化ガリレオンのスカラー場を含まない極限である)ラブロック重力を用いてまず検討する。 また、本年度の研究では、幾何としてトーラスを仮定していたが、このような非等方アトラクターを許す幾何は他にも存在すると考えられ、この条件を書き下すことを目指す。
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Research Products
(3 results)