2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19J11654
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
佐久本 佳奈 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | 日本文学 / 沖縄文学 / 占領 / 検閲 / 新聞小説 / 法と文学 / ジェンダー / 移民 |
Outline of Annual Research Achievements |
国立国会図書館で本土誌に掲載された沖縄系移民に関する昭和初期の文学作品の資料収集を行った。また沖縄県立図書館、琉球大学図書館において、戦後から施政権返還期までの移民・出稼ぎに関する新聞雑誌記事、地方史資料を収集した。 小説投稿の媒体が新聞か同人誌に限られた1950年代の沖縄の文学状況は、琉球大学同人による雑誌『琉大文学』に関する一連の文学・歴史研究が明らかにしてきたが、もう一方で盛んだった新聞小説の検討は全く進んでいない。またアメリカ(軍)と沖縄という対立項が、『琉大文学』や1960年代後半以降の作品に比べて明確には浮上してこない1950年代新聞小説には、むしろ占領下の法制度が沖縄の内部でどのような権力関係や欲望のもとに再整備されたかが見えてくる。 新垣美登子の新聞小説「黄色い百合」は、旧民法が存続した米軍占領下沖縄において女性たちが担った民法改正運動と呼応し、沖縄社会の封建制批判を行った点で、沖縄の男性作家が書いてこなかった占領空間の複数性を提示している。同時代の新聞小説山里永吉「塵境」と『琉大文学』の「塵境」批評は共に自律的な女性の空間を否認するが、テクストは性と生殖に分断された妾・妻・母たちの位相を可視化し、非規範的な女性像を描くことで規範的な家族像をずらす。それは、妾の役目を終えた後にブラジルへ嫁いでしまう産みの母「カミー」を、次代再生産の役割としてではなくエロスの対象とする「百合子」の想いにも現れる。結末の伝統的風習に倣いつつそむきつつ先祖の遺骨を火葬する「百合子」の行為には、新民法を超えた公正な掟への求めが存在する。以上のように本研究は従来の沖縄文学研究で閑却されてきた領域を掘り起こした点で重要だといえる。 2019年11月に行われた近代文学三学会合同国際研究集会で研究成果を報告した。また同月には慶熙大学校グローバル琉球・沖縄研究センター主催の国際学術大会で報告した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画通り、アメリカ統治期の新聞小説を同時代言説と関連させながら、移動の経験の中に存在する人種やジェンダーや階級による差異を作品分析を通じて考察できた。また人の移動を、個人の主体的な行動としてではなく、それを管理する法への観点を取り入れたことで、占領下の新聞小説における法と身体の表象についても考察を深めることができた。 なお2020年2月に予定されていたシンポジウムが新型コロナウイルスで延期とされたため、20,394円を繰り越し研究成果のとりまとめに用いた。
|
Strategy for Future Research Activity |
沖縄をめぐる出稼ぎや戦時強制収容、植民等に関連した史資料や文学作品の収集を継続しつつ、ポストコロニアル理論やジェンダー理論を読み込み、論述を補強する。沖縄の文学を、帝国日本から米軍覇権下の冷戦構造への移行過程において、沖縄以外の領土との重なり合いの中で考察するためにも、今後は占領を描いた日本本土の小説との比較も行う。
|