2019 Fiscal Year Annual Research Report
放射光X線を用いた分子性結晶の高圧下構造解析手法の確立とフロンティア軌道の観測
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19J11697
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
鬼頭 俊介 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | X線回折 / 電子密度 / 分子性結晶 / 分子軌道 / 電荷秩序 |
Outline of Annual Research Achievements |
高圧下X線回折実験では、実験や解析上の制約・問題から得られる情報は限定的である。従って、リファレンスデータとして常圧下における結晶構造・電子密度分布の情報が不可欠である。そこで今年度は、高圧下実験を予定しているいくつかの分子性結晶物質や遷移金属化合物について常圧下における詳細な結晶構造と電子密度分布を調べた。X線回折実験は大型放射光施設SPring-8の単結晶用ビームラインBL02B1で行った。 擬1次元性分子性結晶(TMTTF)2X (X=AsF6)は約100 Kでモット絶縁体相から電荷秩序相へ転移する。この電荷秩序相(30 K)における精密構造解析の結果、電荷移動に対応するTMTTF分子内の結合長の明瞭な変化を観測した。得られた結合長から電荷移動量を見積もると、δCO=0.34eとなった。これはX=PF6の結合長から見積もられた電荷移動量の約3倍に対応する。この結果は、過去の誘電率測定やNMR測定において、X=PF6よりもX=AsF6の方がよりシャープな相転移を示すことに対応すると考えられる。また、コア差フーリエ合成(CDFS)法を用いた電子密度解析によって、TMTTFの分子軌道に対応する価電子密度分布を観測した結果、アニオンの種類の違いによる空間分布の変化は殆ど観測されなかった。さらに、(TMTTF)2X系に関しては、多型も含めて3種類の新物質を見つけることができた。特に、(TMTTF)Xや(TMTTF)X2の物質群では、それぞれTMTTFの形式価数が+1価と+2価となる非常に珍しい電子状態を有しており、興味深い物性も観測された。また、得られた結晶構造を基に、拡張ヒュッケル法による分子軌道計算を行った。今後は、(TMTTF)2X系とは分子配列が異なるこれらの新物質も含めて、その分子軌道状態や圧力効果を系統的に調べる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は常圧下における分子性結晶や遷移金属化合物の精密電子密度解析に成功しただけでなく、興味深い電子状態を示す新物質をいくつか発見することができた。また、上記の研究以外にも、数十時間の長寿命光励起状態を示す分子性結晶BPY[Au(dmit)2]2における特徴的な非平面分子構造の解明や、2次元層状物質層間における動的なCu+イオン液体―固体相転移機構の解明を行った。特に後者は、2次元的なイオンダイナミクスの研究において、非弾性X線散乱、散漫散乱観測、モンテカルロシミュレーションの組み合わせが強力なツールであることを示した。これらの多角的な構造物性研究結果については、既に論文として出版され、いくつかの賞を受賞した。 以上より、おおむね順調に研究が進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度の研究結果を踏まえ、今後は高圧下のX線回折実験を計画している。ただし、現状、昨今のコロナウイルスの影響により、大型放射光施設SPring-8の運転が休止状態にある。従って、今後は研究環境の変化に臨機応変に対応し、最善策を講じつつ課題を遂行する予定である。
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Research Products
(11 results)