2019 Fiscal Year Annual Research Report
Reform of "al-Azhar" Islamic School System after the Nasser Regime in Egypt
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19J11930
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
内田 直義 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | エジプト / 教育改革 / イスラーム / 宗教教育 / アズハル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、エジプトにあるイスラーム学校「マアハド」に着目し、20世紀後半のイスラーム教育改革を教育制度の改編と学校設置の実態の2つの視点から考察することを目的とする。そのために、1.制度改革の内容について法令を整理し、改革方針がどのように運用されたかを報道等から分析する、2.所在地、設置年、設置者等の別に複数の学校を取り上げ、学校の設置過程やそこでの学習様態について事例研究を行う。特に2019年度は2.に重点を置き、これまでの収集資料を元にした成果発表と追加の現地調査を並行して実施した。 主要な実績として、1つは2019年6月の日本比較教育学会第55回大会で、「20世紀後半エジプトにおけるイスラーム学校の再編過程に関する研究: 都市部にある私立学校の『アズハル』系統への統合に着目して」を口頭で発表した。本発表では、都市部のある私設のイスラーム教育機関に焦点を当てた。この学校はナーセル大統領期(1956-70)以降にイスラーム総合機構「アズハル」から正式な認可を受け、その後徐々に当局による関与が強まったことで設置者と学校は有機的な関係性を薄めていった。 また2019年8月に『比較教育学研究』の59号で、「20世紀後半エジプトにおける農村部の近代的イスラーム学校の拡大: 住民の『自助努力』による学校設置過程に着目して」の論文を発表した。1970年代以降のマアハド学校数の急増は「自助努力」という住民寄付がその推進力となった。本論文は農村部の住民が当局と交わした書簡等の分析と、学校関係者への聞き取りから地方の学校設置運動の実態を描いた。 上述のマアハドの事例は地域社会における宗教教育の担い手の変容や、農村部での学校設置運動を通じた教育機会拡大への住民の期待を示す。そこからは制度改革の結果、マアハドというイスラーム教育のあり方がエジプト各地に浸透したことの意味の一端が浮かび上がる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度の研究進捗状況は、「おおむね順調に進展している」といえる。その理由としてまず、2019年8月に日本比較教育学会の学会誌『比較教育学研究』の59号に投稿論文が掲載された点をあげることができる。この論文はマアハドの地域社会への劇的な浸透や、学校設置が住民の学びに与えた影響など、本研究全体の核となる重要な研究背景や問題意識の中で個別の学校設置状況を示した。そのため他の事例の特徴を描き出す際の参照軸ともなる研究成果である。 また2019年の8月から10月にかけて約1ヶ月半の期間で行った現地調査では、エジプト・カイロにあるマアハド女子学校をはじめ、「20世紀後半エジプトにおけるイスラーム学校制度」の下で誕生した特徴的な学校に関する資料を集めることができた。さらにこの時、アズハル系統の高等教育機関に勤務する現地の専門家らから資料分析と論文執筆の方針について貴重なアドバイスを得る機会も得た。 なお上述の女子学校については2019年度末までの時点で着実に分析作業を進展させており、2020年度前半を目処に研究成果を所属学会の学会誌に論文を投稿するよう準備している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまでに収集してきた資料の分析を継続しつつ、以下のテーマについて投稿論文や学会報告を通じて積極的に成果を発表する。まず現在エジプトのイスラーム教育の制度枠組みを法令の分析から整理した上で、同時代の報道、議会議事録を手がかりに当局がどのような意図で制度導入を推進し、社会がこれをどのように受け止めたのかを考察する。 また事例研究として、1. 制度改革以前からあるマアハド・アフマディー等でのかつての学習風景、2. カイロ近郊のイスラーム学校の設置運動、3. カイロ市内のマアハド外国人学校の存在意義に着目する。これらのマアハドは学校の設置年、設置者、設置目的等の点で異なる特徴を持ち、他の学校との間で学校設置の経緯や期待される役割の差異が象徴的に表れる事例である。これらに2019年度までの研究成果を合わせて、本研究を最終的に博士学位論文という形で結実させ所属大学院に提出する。 なお、現時点で収集が完了していない資料があり、追加の現地調査も必要となる。特に優先して収集する資料は法令成立に至る政治的、社会的な議論を把握するための資料である。当時の状況は政府系日刊紙のアフラーム紙等の報道から読み取ることができ、議会の議事録からも法律制定に至る背景を知ることが可能である。これらの資料はエジプトではカイロ・アメリカン大学の図書館等に収められているとみられるが、一部は日本でもジェトロ・アジア経済研究所の図書館等に保管されている。そのためコロナウィルスの感染拡大状況に十分留意した上で、2020年夏以降に国内外で現地調査を実施する予定である。
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Research Products
(2 results)