2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19J11935
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
陣内 和哉 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 有機蓄光 / 光化学 / 電荷分離・電荷再結合 / 有機半導体 / 励起状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
蓄光材料は明所で光を蓄え、暗所で光を放出する材料である。放出が長時間持続する特性から、夜光塗料として時計の文字盤等に利用されている。市販されている蓄光材料は全て金属でできた無機蓄光材料であり、10時間以上発光が持続する。しかしながら、レアアースや煩雑な製造工程が必要であり、コスト面に課題が残る。また、溶媒への溶解性がなく、透明性もないため、繊維の染料や透明フィルムといった用途には使えない。 我々の研究室では世界で初めて有機物を使った蓄光材料を開発した。有機蓄光材料はレアアースを含まないだけでなく、軽量、柔軟、安価、生体適合性といった機能を付与可能となり、蓄光材料の新たな利用用途が開拓できると期待されている。 しかしながら、有機蓄光材料の発光持続時間は無機蓄光材料に遠く及ばない。これまでに発光持続時間を向上させるためにいくつかの手法を提案しており、着実に成果は出ている。それでもなお有機蓄光材料の発光持続時間は無機蓄光材料の100分の1以下である。これは全ての改善手法が最初に報告された有機蓄光材料のコンセプトに則っているためである。本研究では既存有機蓄光材料とコンセプトの異なる新たな材料を導入した。 新コンセプトに則った複数の材料をホスト媒体中に分散したところ、いくつかの組み合わせにおいて励起後も長時間持続する発光が観測された。その発光減衰を時間に対して両対数グラフにプロットすると、直線的に減衰しており、蓄光であることが確認された。続いて、蓄光を示す材料の共通点と蓄光を示さなかった材料の共通点を洗い出すことで、新コンセプトの修正を行った。蓄光を示す材料の共通点から、別の材料を候補として見出した。実際に新材料をホストに分散すると、既存有機蓄光材料よりも長い蓄光が観測された。 今後は前年度に見出した新コンセプトに則った新規分子を設計、合成し有機蓄光材料のさらなる機能改善を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
近年、注目を集めている長寿命有機蓄光材料の研究開発に従事している。有機蓄光材料は励起子生成、電荷分離、電荷結合過程を経由して遅延発光に至るプロセスである。本研究では材料構成そのものへのアプローチを行うことで、電荷分離、電荷再結合過程を改善し、電荷蓄積量を増加させることを目的としている。そのために、従来の有機蓄光とは異なるコンセプトに基づいてゲスト材料選択を行った。現在までに、選択した分子の基本物性測定および有機蓄光発現の有無について検討を行った。ホスト媒体によって物性が変化することが予想されたため、様々なホスト媒体に分散した。複数のホスト媒体とゲスト材料の組み合わせにおいて励起終了後も数十秒持続する発光が観測された。発光減衰はべき乗則に従っており、これは既存有機蓄光材料、無機蓄光材料に特有の挙動であった。したがって、新コンセプトに則ったゲスト分子も蓄光材料として機能していることが判明した。蓄光発現の要因を明らかにするために、蓄光を示したゲスト分子に類似した複数の分子についても検討を行った。類似分子の殆どは蓄光を示し、中には既存有機蓄光材料よりも発光持続時間が長いものもあった。したがって、新コンセプトによって有機蓄光の発光持続時間が改善されることが証明できた。各分子の基礎物性を比較すると有意な共通点が見られ、今後の分子設計が可能になる。また、新コンセプト有機蓄光材料は電荷分離、電荷再結合過程を見直しているため、従来の有機蓄光では実現できなかった新たな機能を有しており、実用化に向けて大きく前進した。 前年度は新コンセプトに則った分子による有機蓄光の実現のみならず、既存有機蓄光材料よりも長い発光持続時間の達成および、既存有機蓄光材料では実現できなかった機能の実現ができおり、当初の予想よりも大幅な進展があったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は蓄積電荷量増加による発光持続時間改善という目的達成のため、新コンセプト有機蓄光材料の分子設計指針の確立と実証を目指す。 前年度見出した新コンセプト有機蓄光材料では発光持続時間が既存有機蓄光材料より長く、また新たな機能を示すことが判明した。しかし、それらが電荷蓄積量増加に由来していることは明らかとなっていない。そこで、蓄積電荷の光吸収を直接観察できる吸収測定を行う。この過渡吸収スペクトルおよび過渡吸収強度のゲスト材料依存性や時間変化を解析することによって膜中の蓄積電荷を定量的に評価する。また、各材料に対して量子化学計算を行い、HOMO-LUMO軌道変化を明らかにすることで分子設計指針をより強固にする。一方で、ゲスト材料濃度やホスト媒体の違いによる電荷蓄積量の変化を確認する。 上記の検討の後、新コンセプト有機蓄光に最適なゲスト分子の設計および合成を行う。結合や官能基の異なる分子について量子化学計算を行い、実際に合成し、蓄光の有無を過渡発光測定で確認する。そこで得られた知見をフィードバックし、分子設計指針を改善する。新しい指針に従った分子の合成、評価を繰り返し行い、分子設計指針を最適化する。 研究の集大成として、新コンセプト有機蓄光材料から蛍光材料へのエネルギー移動を利用して、電荷蓄積量の最大化と電荷再結合後の発光効率の高効率化を両立し、有機蓄光の発光持続時間を最大化する。蓄光スペクトルと蛍光材料の吸収スペクトルの重なりから蛍光材料を選択し、発光スペクトル測定や発光持続時間測定、発光効率測定を行い、その結果から混合比率や材料の組み合わせを最適化し、実用レベルの発光持続時間を達成する。
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Research Products
(2 results)