2019 Fiscal Year Annual Research Report
分散力クロマトグラフィーのための新規分離媒体の開発
Project/Area Number |
19J11971
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
金尾 英佑 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 分散力 / クロマトグラフィー / π相互作用 / 同位体 / ハロゲン化芳香族 |
Outline of Annual Research Achievements |
分散力クロマトグラフィーの創成を目的とした液体クロマトグラフィー用新規分離媒体の開発とその応用研究を行った。芳香族は電子の局在化が起こりやすく,芳香環に起因する分子間相互作用 (π相互作用) も分散力の一種であると考えられている。一方,ナノ炭素材料は,多数のπ電子に起因する強固なπ相互作用を発現することが知られており,液体クロマトグラフィー (LC) のカラム分離剤等に用いることでπ相互作用等を強く発現する新規分離場構築への応用が期待されている。これまでの成果として,ナノカーボン材料の一つであるC70-フラーレン (C70) をシリカ表面に固定化した分離剤を開発し,強力な分散力に基づく多環式芳香族炭化水素の分離に成功した。同分離剤の保持挙動から,半球面状分子であるコランニュレン (Crn) とC70間に働く球面ー球面間の特異的なπ-π相互作用の存在を明らかにした。また,Crn骨格を固定化した分離剤を複数種開発して評価を行い,Crnの凹凸面それぞれにおいて異なる形状認識を示すことを明らかにした。さらに,種々のカーボン材料を固定化した分離剤を用いて,ハロゲン化ベンゼンの保持挙動を評価することで,芳香環とハロゲン基との間に働く分子間相互作用(X-π相互作用)の性質を明らかにし,X-π相互作用を利用した臭素化ベンゼン異性体の一斉分離を達成した。この他,種々の分離剤,移動相を用いて,H/D同位体分離に寄与する分子間相互作用の詳細についても検討し,溶質の水素原子と分離剤の芳香環との間に働くCH/CD-π相互作用の重要性を明らかにすると共に,OH-π相互作用とCH/CD-π相互作用とが互いに逆向きの同位体効果を発現することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画書に示したとおり,C70-フラーレンやコランニュレンなどのナノ炭素材料を分離基材に固定化し,汎用の分離剤にはない強力な分散力を発現する新規分離媒体の作製に成功した。また,作製した分離剤を用いて,H/D同位体やハロゲン化芳香族の精密分離にも成功した。これらの結果は,重水素化医薬品やハロゲン系環境汚染物質の分離・精製技術につながることが期待される。また,研究成果は,複数の国際学術誌に掲載されており,学会発表も積極的に行い,優秀発表賞を受賞するなど高い評価を得ている。以上のことから,総合的に研究は順調に進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,ナノ炭素材料固定化カラムに親水性スペーサーを導入し,本手法を糖タンパク質糖鎖構造の直接分析へ応用する。ナノ炭素材料と熱・光活性物質であるperfluorophenylazide(PFPA)複合体の酸塩化物を合成し,親水性ポリマーであるpolyethyleneglycol(PEG)とのエステル化反応を行う。シランカップリングによってシリカモノリス上に酸無水物基を導入し,加水分解反応を利用してPEGスペーサーを導入した カラムを作製する。この際,鎖長が異なるPEGを導入したカラムを複数作製し,分析結果から PEG 鎖長を最適化する。移動相中の有機溶媒の種類,水比率,gradient溶出条件を網羅的に検討し,IgG標準品の液体クロマトグラフィー分析を行う。固定相の疎水性が高く,タンパク質部位 の疎水吸着が起こる場合,反応溶液の 濃度を変え,固定化量を制御する。検出器にはESI-MSを使用し,分子量からIgG標準品内の糖鎖構造を決定する。本研究で得られた成果は,論文の投稿,学会発表を通して積極的に後続研究の促進を行う。
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Research Products
(11 results)