2019 Fiscal Year Annual Research Report
近代オスマン帝国における公衆衛生問題―イズミルの事例から
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19J12055
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
鈴木 真吾 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | オスマン帝国 / 疫病 / コレラ / イズミル / 都市社会史 / 近代史 / 公衆衛生 / 医学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1880年代から第一次世界大戦前にかけてのイズミルに焦点を当て、近代オスマン帝国都市における衛生問題の展開を解明しようとするものである。 2019年度はまず、イズミルで発生したコレラ流行を取り上げ、そこでの行政的対応の特質や変化を検討するために、地方新聞や行政文書、外国の外交文書や各種報告書類を精読した。上記を通じて、特に1910-11年にイズミルで発生したコレラ流行において、上水道への対策や、患者とその住所の特定による厳格な隔離、都市におけるコレラ感染地図の作成など、以前と異なる新たな諸対策が見られたことを明らかにした。また、19世紀末から20世紀初頭における細菌学の興隆とオスマン帝国での受容が、同時期のオスマン帝国都市における衛生対策にいかなる影響を及ぼしたかについて検討を行った。以上の内容については学会で発表を行い、論文化の準備を進めている。 また、20世紀初頭にイズミルで発行された雑誌「衛生」の精読も進め、当時の人々にどのような衛生実践を推奨していたかについても考察を進めている。この一部は6月に開催された学会において発表を行った。 以上の研究を進めるにあたり、夏季休業を利用して海外調査を実施し、ウィーンとイスタンブルの公文書館を訪問した。ウィーンでは、家門・宮廷・国立文書館にて史料調査を実施した。主に20世紀初頭のオーストリア・ハンガリー帝国のイズミル領事関連資料、保健衛生関連の外交文書を調査し、1910-11年にイズミルで発生したコレラに関する重要史料を発見した。イスタンブルでは主に大統領府オスマン文書館で行政文書の調査・収集を行った。保健省関連文書のうち、台帳類が公開されており、20世紀初頭のイスタンブルの死亡統計台帳や、各年度の保健関連台帳(議事台帳、地方からの報告簿など)を収集することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、1. 疫病(コレラ)の流行、2.個人・家庭における衛生という2つの観点から研究を進めた。当初は2つの研究報告を予定していたが、結果として国内で3つの報告を行った。史料の精読は予定通りに進んだ他、海外調査を通じて新たな重要史料を発見するなどの収穫もあった。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度の計画は、新型コロナウィルスの世界的流行による日本および調査予定諸国の状況に大きく左右されるものと思われる。 当初の計画では、本年度は1~2度の海外調査を行う予定であったが、実施の時期および可否は今後の状況次第で変更する可能性がある。また感染症の影響の長期化が予想される中、学会などが開催されるのかも不透明である。前年度に3つの研究報告を実施したこともあり、今年度は論文執筆に重点を置き研究を進める。 夏季休業期間までは、史料読解と論文準備に専念する。現在分析を進めているイズミルで出版された衛生雑誌『衛生』や、ベスィム・オメルによる『保健年鑑』を読み進め、近代オスマン帝国における健康・衛生問題に関して、特に個人・家庭のレベルで推奨された諸対策の考察を深める。 イギリスの国立公文書館などを訪問し、前回調査時に時間の関係上部分的にしか入手できなかった、衛生・保健関係の外交資料を調査する。また、トルコにおいても現在整理・カタログ化が進んでいる保健省の文書史料について、調査を行う。これらをもとに秋以降、論文を投稿する。同時に、博士論文執筆の準備を進める。 夏時点で海外渡航が難しい場合、延期が第一の選択肢だが、現在のように先行きが見えず予定が立たない場合には研究計画の一部を見直す。具体的には、海外での新たな史料の収集から、既存の史料や研究書、研究論文の調査・精読といった国内で遂行可能なものを重点的に行うよう切り替える必要があるだろう。
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