2019 Fiscal Year Annual Research Report
Mechanism of cancer cell-selective adhesion on polymers: Effect of side-chain spacing and hydration states of poly(2-methoxyethyl acrylate) derivatives
Project/Area Number |
19J12106
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
園田 敏貴 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 開環メタセシス重合 / 吸着タンパク質 / 上皮細胞接着分子 / インテグリン / 水晶発振マイクロバランス / 水和 / 刺激応答 / がん細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
高分子材料表面での細胞の接着機構を理解し制御するためには、高分子の表面物性や水和状態、タンパク質の吸着状態、がん細胞の接着状態を段階的に解明する必要がある。これを達成するにあたって、一次構造が厳密に制御された高分子を用いて検討を行うことは、極めて有効な手段であると考えられる。 本研究課題では、材料と細胞・血漿タンパク質との相互作用における水による溶媒和の重要性に着目し、生体適合性高分子にがん細胞が選択的に接着するメカニズムを解明することを目的としている。具体的には、生体適合性を示す高分子であるポリアクリレート類において観測されている特徴的な水和状態を制御するため、その側鎖導入間隔を制御し、主鎖ポリエチレン骨格に対して1、2、4、5、7、8炭素おきに側鎖を導入したモデル高分子を合成する。得られた高分子の一次構造と水和状態の関係を明らかにするとともに、高分子の表面物性やタンパク質の吸着状態、細胞挙動を解析し、水和状態と水和により生じる相互作用の関係を明らかにする。 2019年度は、上皮細胞接着分子(Ep-CAM)の発現量が異なるがん細胞株を用いて新規高分子に対する接着実験を行い、細胞接着のインテグリン依存性を評価した。その結果、新規高分子上ではインテグリンに依存しない接着が生じており、その接着は側鎖導入間隔を拡大させると著しく抑制されることが示唆された。また、吸着タンパク質の定量手法について、一般的に用いられるmicroBCA法が適用できないことが明らかになったため、水晶発振子マイクロバランス法を用いた新たな定量手法を確立した。本法を用いた定量の結果、水和状態の変化に伴うタンパク質吸着量の変化の度合いは、その種類によって大きく異なることが明らかとなった。 上記の研究過程で得られた成果については国内学会で4件の報告を行い、学術誌への論文投稿も予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該研究課題の達成度としては、やや遅れが生じていると言わざるをえない。2H固体NMRを用いた水和状態の評価を2019年度内に開始する予定であったが、設備利用にかかる手続きの都合上2020年度に延期した。このため、細胞実験やタンパク質吸着試験を2019年度に行ったが、本研究の核を成すタンパク質吸着挙動の評価において、定法とされるmicroBCA法が適用できない事例が発生したため、水晶発振子マイクロバランス法を用いた新たな定量手法の確立を優先して行った。これに伴い、新規高分子の合成実験に着手する時期に遅延が生じた。 高分子合成の点では、モノマーの前駆体となる化合物と一部モノマーについては合成を達成することができたが、重合条件の検討は2020年3月時点で着手できておらず、2020年5月から検討を開始する予定である。 生体適合性評価の点では、新しいタンパク質吸着試験方法の確立に数ヶ月を要したが、水和状態の変化に伴うタンパク質吸着量の変化や、タンパク質の種類による吸着挙動の差を明らかにし、細胞接着選択性に関与する相互作用の候補を特定できた。 全体を通して、タンパク質吸着試験の手法確立およびその再検討に長期間を要し、高分子合成および水和状態の評価に遅延が生じたため、高分子の一次構造と水和状態の関係を詳細に考察するには至っておらず、2019年度中の目標としていた達成度には未達となった。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、2019年度に合成したモノマーの重合条件の検討と、その他に予定していた新規高分子の合成を行い、これらについて水和状態の解析を行う。高分子の一次構造と水和状態、表面物性の関係を明らかにし、細胞挙動を制御するメカニズムを考察するための情報収集を最優先に進める。水和状態の解析と並行してタンパク質の吸着状態や細胞挙動の解析も進める。 これまでに行ってきた高分子合成の結果から、側鎖にジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基を有する新規高分子は非水溶性示し、かつpHに応答した水和状態を示すことが期待される。既報において、ジメチルアミノ基を有するアクリレートは、メチルアクリレートとの共重合により側鎖のイオン反発を解消するとpKaが単独重合体よりも大きくなることが報告されている。本研究で合成する新規高分子は側鎖導入間隔を拡大しているため同様の効果でpKaを変更でき、pHに応答して水和状態や細胞接着性が変化するスマートバイオマテリアルとなると考えられる。したがって、水和状態や生体/材料間相互作用のpH依存性や温度応答性についても解析を行い、本研究課題の目的であるメカニズム解明につなげる予定である。 また、水和状態の解析方法としてNMR法に重点をおいて解析をすすめる。2019年度に行った熱分析による手法と比較して、NMR法では分子運動性に関連した情報が得られ、材料と生体間の水和により生じる相互作用を考察する上で重要な知見になると期待される。 加えて、2019年度に申請者が所属する研究室において、水和状態が異なる生体適合性高分子上で細胞を培養すると細胞の接着力に大きな差が生じていることが確認された。この事実は、当該研究課題において接着選択性のメカニズムを考察する上で大変重要な知見となる。これら関連研究の動向も慎重に考慮しながら、本研究で得る知見の意義を関連研究へ波及できるよう研究を推進する。
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