2019 Fiscal Year Annual Research Report
性染色体にコードされたヒストン脱メチル化酵素によるライディッヒ細胞の分化制御
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19J12133
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
柳井 翔吾 九州大学, システム生命科学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 性染色体 / エピジェネティクス / ライディッヒ細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
性決定遺伝子Sryを有する個体は性染色体構成がXX(メス型)であっても精巣が形成されオスになる。しかし、XXオスのライディッヒ細胞ではテストステロン(男性ホルモン)産生能が正常なXYオスと比べて低下する。本研究は性染色体上の遺伝子SMCX/SMCYおよびUTX/UTYの発現がテストステロン産生能を制御しているか否かを調べるために、XYおよびXXライディッヒ細胞のトランスクリプトームを取得し、比較解析した。その結果、XXライディッヒ細胞ではコレステロール産生系の遺伝子発現が上昇し、最初期遺伝子の発現が低下することが明らかになった。一方、テストステロン産生系の遺伝子発現に顕著な差はなく、XXオスにおいてテストステロン産生能を低下させる原因遺伝子の同定には至らなかった。次に、テストステロンおよびその中間代謝産物量を測定した結果、反応前半の中間代謝産物量はXXオスで増加していたにもかかわらず、反応後半の代謝産物(DHEA、アンドロステンジオンおよびテストステロン)量はXXオスで減少していた。この結果はCYP17A1の17,20リアーゼ活性が低下していることを示唆した。 性染色体構成により遺伝子発現が変化するメカニズムを明らかにするため、申請者はSMCX/SMCYおよびUTX/UTYに着目している。これらは性染色体にコードされたヒストン脱メチル化遺伝子であり、H3K4me3とH3K27me3の脱メチル化を担う。そこで、XYおよびXXライディッヒ細胞を用いてH3K4me3とH3K27me3のCUT&RUNを行い、ゲノムワイドなヒストンメチル化状態を解析した。CUT&RUNは少数細胞で標的タンパク質のゲノム上の局在を確定できる。解析の結果、XY/XX間でゲノム全体のヒストンメチル化状態に差があることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ソーティングにより高純度なXYおよびXXライディッヒ細胞を調製する系を確立し、トランスクリプトーム解析およびCUT&RUNによるエピゲノム解析を可能とした。当初の予定と異なり、XXオスでテストステロン産生能を低下させる原因遺伝子をトランスクリプトーム解析から同定することはできなかった。しかし、テストステロン産生系の中間代謝産物量の定量により、CYP17A1の17,20リアーゼ活性の低下がテストステロン産生能を低下させる原因となっていることが示唆された。この結果は遺伝子発現からは予想もできなかった興味深い表現形であり、同時に、これまでに報告のない珍しい表現形でもある。すなわち、XXオスにおけるテストステロン産生能の低下には、CYP17A1の酵素活性を制御する未知の機構が関与していると期待される。 XY/XX間の遺伝子発現の差はSMCX/SMCYおよびUTX/UTYのヒストン脱メチル化活性に起因すると予想していた。実際に、CUT&RUNを用いたH3K4me3とH3K27me3のエピゲノム解析からゲノム全体のメチル化状態に差が認められている。今後はこれらのヒストン修飾の差異がSMCX/SMCYおよびUTX/UTYにより制御されていることを示すために、これらのタンパク質に対するCUT&RUNを行う予定である。これまでの予備検討から、市販の抗体および申請者が自作した抗体はCUT&RUNに使用できないことがわかっている。そこで、SMCX/SMCYおよびUTX/UTYをFLAGタグ付きタンパク質として発現する4種類のノックインマウスを作出し、FLAG抗体を用いてCUT&RUNを行える系をこれまでに用意した。以上のように、部分的には期待通りに進まなかった点はあるものの、目的達成に向けて実験を勧めており、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の結果から、XXオスのライディッヒ細胞ではCYP17A1の17,20リアーゼ活性が低下していること、およびH3K4me3とH3K27me3のヒストン修飾状態が変化していることが明らかになっている。今後は、H3K4me3およびH3K27me3の脱メチル化活性を有するSMCX/SMCYおよびUTX/UTYのCUT&RUNを行い、これらのタンパク質のゲノム上の局在を明らかにする。この実験に必要な抗体およびトランスジェニックマウスは用意できており、また、ライディッヒ細胞の単離およびCUT&RUNを行うための実験系はすでに確立できているため、技術的な問題はない。CYP17A1の17,20リアーゼ活性はMAPKカスケードによるリン酸化が重要であるとの報告がある。そこで、XXオスのCYP17A1のリン酸化状態をPhos-tag SDS-PAGEを用いて解析する。Phos-tag SDS-PAGEではリン酸化されたタンパク質の移動度が低下するため、CYP17A1のリン酸化・非リン酸化の度合いを同時に解析することが可能である。 以上の結果より、ライディッヒ細胞におけるテストステロン産生系の制御機構、およびそれに関わる遺伝子の発現制御においてSMCX/SMCYおよびUTX/UTYが重要な役割を担っていることを示す。
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Research Products
(4 results)