2019 Fiscal Year Annual Research Report
Study of rotational symmetry breaking in superconductors via uniaxial-pressure measurements
Project/Area Number |
19J12149
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石田 浩祐 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | 鉄系超伝導体 / 一軸性歪み / 電子ネマティック秩序 / 量子臨界点 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である今年度は、まずピエゾ素子を6つ用いた一軸歪み制御装置とヘリウム3冷凍機を組み合わせ、500mKの低温まで測定可能なシステムを構築した。今後一軸性歪みに対する鉄系超伝導体の超伝導転移温度の変化を測定することを考えているが、ピエゾ素子は低温では電圧印加に対する変位が小さくなってしまうため、より高電圧を加えられるように冷凍機の配線を改良する必要がある。 また、最近所属研究グループにおいて新しく合成に成功した鉄系超伝導体Fe(Se,Te)の電子ネマティック秩序に関する研究を行った。まず、母物質であるFeSeのSeをTeに置換することによる構造相転移温度の変化を高エネルギー加速器研究機構における放射光を用いた低温構造解析から追跡した。その結果、Te置換量が約42%付近で構造相転移温度が消失することが明らかとなった。 次に、一軸歪みに対する電気抵抗の変化である弾性抵抗を測定することにより、この系の電子ネマティック感受率の温度依存性を評価した。その結果、母物質のFeSeと同様にTe置換した試料においても構造相転移温度に向かってネマティック感受率が増大していくことが明らかとなった。さらに、Te置換量38%付近の試料においてはネマティック感受率の値が最も増大しており、キュリーワイス則から得られるワイス温度が符号反転を起こした。現状この系において磁気秩序の報告はなく、これはFe(Se,Te)において非磁性のネマティック量子臨界点が存在することを示唆している。今後はこのネマティック量子臨界点近傍での電気抵抗や磁気抵抗の振る舞いなど、この新しい量子臨界点が電子系に及ぼす影響を詳しく調べていく予定である。 なお、今年度は4月上旬から6月中旬にかけてドイツのカールスルーエ工科大に出張し、比熱や熱膨張といった熱力学量測定について学んだ。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究を進める上で重要な、ピエゾ素子を6つ用いることで試料の歪みを制御することが出来る一軸制御歪み制御系については、500mKの低温までの測定が可能なシステムを構築することができた。 また、昨今研究競争が激しい鉄系超伝導体Fe(Se,Te)に関しては、放射光実験と弾性抵抗測定を系統的に行い、ネマティック量子臨界点の存在を示唆する結果を得た。これはFe(Se,S)に続く、磁気秩序を示さない非磁性のネマティック量子臨界点の可能性があり、重要な結果である。特に、Fe(Se,S)においては電子ネマティック秩序が消失すると超伝導転移温度が急峻に減少するのに対し、Fe(Se,Te)においては超伝導転移温度が上昇している点は興味深い。今後このFe(Se,Te)とFe(Se,S)における量子臨界点近傍の物性を比較することで、鉄系超伝導体で発現する電子ネマティック秩序の役割について理解を進めることが期待できると考えている。 ドイツカールスルーエ工科大滞在時は、比熱や熱膨張などの熱力学量測定について学ぶことが出来た。特に、長時間緩和法を用いた比熱測定について学ぶことができ、今後一軸歪み制御下での比熱測定系を構築していく上で非常に参考になったと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
一軸制御歪み制御システムに関しては、改良を進めていく予定である。まず、冷凍機や歪み装置の配線を改良し、より高電圧をピエゾ素子に加えられるようにすることで、極低温まで1%付近までの歪みを加えられるようにする。また、現在の装置はSUS304を材料としているが、SUS304はピエゾ素子との熱膨張の差が大きく、その影響で低温にしていくにつれて試料に大きな歪みが加わってしまい、歪みのゼロ点がわかりづらくなってしまう可能性がある。そのため、ピエゾ素子との熱膨張の差が小さいチタンを用いて新しく歪み装置を構築することを検討している。 今年度発見したFe(Se,Te)のネマティック量子臨界点に関しては、この量子臨界点付近での強いネマティック揺らぎが引き起こす電子系の異常物性について主に電気抵抗や磁気抵抗の測定を通して調べていきたいと考えている。これまで主に反強磁性秩序の量子臨界点近傍において電気抵抗が温度に比例する振る舞いを示すことが知られているが、反強磁性秩序と異なり強的秩序である電子ネマティック秩序の量子臨界点が同様な振る舞いを示すかどうかは自明ではなく、詳しく調べることが重要である。また、量子臨界点近傍においては通常電子相関が増大することが期待されるため、高磁場下での電気抵抗測定を行うことで臨界磁場が量子臨界点付近において増大するかどうかを調べることを予定している。
|