2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19J12154
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
田澤 俊介 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ポリマー / ラジカル重合 / 医療材料 / 水素結合 / 固形化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は分子への水素結合導入による高成形性かつ血液適合性を有するポリ(2-メトキシエチルアクリレート)(PMEA)の創製を目的とした.そして,水素結合の導入のために,一般的に反応時に水素結合基を形成することで知られるジイソシアネートに着目し,PMEAの固形化を試みた.本年度は(a)ジイソシアネートとの反応に必要なヒドロキシ基(OH)末端を有するPMEA (OH基末端PMEA)の合成,および(b)OH基末端PMEAへのジイソシアネート導入による水素結合基の導入の2つの手順により水素結合を有する固形PMEAの合成手順を確立した. (a)についてはリビングラジカル重合の一種である可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT)法を利用して,モノマーである2-メトキシエチルアクリレートを重合することでOH基末端PMEAを合成した.合成したOH基末端PMEAは黄色の粘性を有するポリマーであった.さらに,分子量を解析したところ,数平均分子量,重量平均分子量はそれぞれ 6,100および7,700であった. (b)についてはOH基末端PMEAとジイソシアネートとの反応により水素結合基を導入することで固形化を試みた.合成したPMEAは黄色のフィルムであった.さらに,数平均分子量,重量平均分子量は32,000および83,000となり,反応前のOH基末端PMEAより分子量が増大した.さらに,フーリエ変換赤外分光測定によりPMEAの内部構造を解析したところ,OH基末端PMEAにはない水素結合に由来するピークが3200-3400cm-1に現れたため,分子内部への水素結合の形成により,PMEAが固形化したと考えられる.以上の結果は,従来常温にて液状であるがゆえに用途が限定されてしまうPMEAの問題に対し,固形化により形状を安定させ成形を可能にすることで,用途の拡大につながるという点で,大きな意義があると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画では,水素結合導入により高成形性を有する固形ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)(PMEA)を合成することを目的とした.そして,その実現に向けて,ジイソシアネートとの反応に必要なヒドロキシ(OH)基末端を有するPMEA(OH基末端PMEA)の合成,およびOH基末端PMEAとジイソシアネートの反応による水素結合の導入といった2つの工程を軸として水素結合を有する固形PMEAの合成を試みてきた. そして,合成手法を検討した結果,リビングラジカル重合の一種である可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT)法を用いることによって,粘性を有するOH基末端PMEAを合成することができた.そして,トルエンを溶媒に用いてOH基末端PMEAとジイソシアネートを反応させることで,元々液状であったPMEAが固形化した.このとき,定性的はあるが加熱することで軟化したことから本固形PMEAは成形性を有していると考えられる. また,高速液体クロマトグラフィーによる分子量測定を実施したところ,イソシアネートとの反応前後で分子量が変化したことから,本材料はOH基末端PMEAとジイソシアネートとの混合物ではなく,実際に化学反応した化合物であることも確認できた.さらに,核磁気共鳴装置やフーリエ変換赤外分光測定(FTIR)による化学解析により,分子鎖内に水素結合基の一種であるウレタン結合が形成されていることが明らかになった. そして,FTIRによるPMEAの内部構造の解析により,水素結合に由来するピークが固形PMEAにのみ出たことから,ウレタン結合の影響により水素結合が導入され,固形化につながったことが確認できた.現在は,来年度の固形PMEAの物性解析に向けて,解析手法や実験条件の検討を進めている段階である. 以上の結果は当初の計画に沿って進んでいることから本年度の結果はおおむね順調であると判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度では,常温で固形状態を示すポリ(2メトキシエチルアクリレート)(PMEA)の合成手順を確立した.そこで,今後は(a)今年度で合成した常温で固形を示すPMEAの物性評価を実施し,その解析結果を踏まえて(b)医療基材に適した固形PMEAの創製を試みる. (a)に関しては,前年度に合成した固形のPMEAを医療基材として使用するために必要な物性を評価する.具体的には,力学物性,熱物性,および医療材料として血液が付着しないかを評価するために抗血栓性を対象とする.力学物性については引張試験,熱物性については,温度を変化させた際の動的粘弾性試験,そして抗血栓性については実際に血小板の溶液に材料を入れたときの血小板の付着量を測定する抗血栓性試験によりそれぞれ評価する. (b)に関しては,(a)で評価した物性をもとに固形PMEAの構造を変化させ医療基材に適した固形PMEAの合成を試みる.変化させる構造としては,分子量や水素結合の導入に必要なジイソシアネートの構造があげられる.初めに分子量は,前年度に合成したOH基末端PMEAとジイソシアネートの比率を変化させることで制御を試みる.そして,分子量の制御によりPMEA分子の長さやジイソシアネートとの結合数を変化させた際の,水素結合基の量や分子同士の絡み合いによる相互作用の影響を評価する.一方ジイソシアネートの種類については,ベンゼン環や脂肪族など異なる構造を有するジイソシアネートとPMEAを反応させることで固形PMEAの分子構造を変化させ,その影響を評価する.合成したPMEAの分子量については,高速液体クロマトグラフィーを用いて評価する.さらに,分子量を制御したPMEAについてフーリエ変換赤外分光測定により水素結合を含めた構造を解析し,(a)で実施した引張試験,動的粘弾性試験,抗血栓性試験を実施することで医療材料に適した条件を模索する.
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