2019 Fiscal Year Annual Research Report
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19J12284
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
福住 勇矢 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 三次電池 / エントロピー / 電池材料 / エナジーハーベスティング / 層状酸化物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度に実施した研究では、(1)P2型NaCoO2の酸化還元電位の温度依存性(α)の測定とその物理的起源(2)水溶液中に溶解する酸化還元イオンの溶媒分子がαに及ぼす効果--について成果を得ることができた。 (1)リチウム/ナトリウムイオン二次電池電極で典型的な層状構造を持つ材料の一つ、P2型NaCoO2のαのイオン濃度依存性を精密に測定し、その主要な起源が層間のNaイオンの無秩序配置に由来する配置エントロピーの変化にあることを明らかにした。三次電池の候補材料として第一にリチウム/ナトリウムイオン二次電池材料が挙げられるが、その多くがP2型NaCoO2と同様の層状物質であり、本研究によりこれらの物質を三次電池に応用する際の挙動の予測が容易になった。また、三次電池への応用とは離れるが、二次電池材料としての層状物質のイオン配置は一般に二相共存状態として解釈されており、その境界に本研究で明らかになった無秩序配置が存在し、それが電池としての動作(酸化還元の促進)の必要条件になっていることが示唆された。 (2)水溶液中に溶解する酸化還元イオンの溶媒分子がαに及ぼす効果について、有機溶媒の種類を変えてαの変化分(Δα)を系統的に測定した。11種類の有機溶媒について、Δαは有機溶媒のモル体積に相関することが実験より明らかになり、これは酸化還元イオンの周辺から除外された水分子と代わりに配位した有機分子の配置エントロピーの差であると解釈した。このことは三次電池において、活物質の酸化還元自体のエントロピーのみならず、その際に配位する分子の体積を変化させることでαがより大きな三次電池が開発できることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の当初の研究実施計画に記載した(1)酸化還元電位の温度依存性を利用したデバイスの電流とそれにより発生する熱流との相関を実験により明らかにする(2)水溶液中のアニオンがαに及ぼす効果を解明する(3)様々な固体物質のαの測定を行う--のうち、(2)と(3)はおおむね達成できたが、(1)については、当初予想と異なる実験結果が得られており、結果のまとめにやや時間を要している。
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Strategy for Future Research Activity |
遅れている「酸化還元電位の温度依存性を利用したデバイスの電流とそれにより発生する熱流との相関」については、実験条件の確認や結果の検討を進めており、まとめに向けて研究を継続する予定である。 また、2019年度中の当研究グループの実験と他グループの報告との比較から、水溶液中のイオンの濃度勾配がαに影響を及ぼしている可能性が示唆されている。三次電池の実用化においても生じうる現象であり、この効果の解明は重要である。2019年度に実施した「水溶液中に溶解する酸化還元イオンの溶媒分子がαに及ぼす効果」に関する実験で用いたセルの改良を経て、濃度勾配の研究を進める予定である。 さらに、様々な固体物質のαの測定のうち、2019年度に報告したP2型NaCoO2と同様の構造を持つLiCoO2やグラファイトのαを測定し、結果の比較とエントロピーについての考察を行う。研究手法はP2型NaCoO2のαの測定を踏襲する。 これらの研究により、三次電池で本質となる電極材料の物理の解明とデバイスの実用で生じる諸現象の正確な把握をもって、三次電池実用化への指針をまとめる予定である。
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Research Products
(5 results)