2019 Fiscal Year Annual Research Report
神経-グリア-代謝クロストークの光操作による精神疾患の病態解明への挑戦
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19J12337
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
久保 尚子 東北大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | オプトジェネティクス / ミトコンドリア |
Outline of Annual Research Achievements |
ミトコンドリアは、真核生物の細胞質に存在する、外膜と内膜の二重の生体膜からなる細胞内小器官である。“細胞のエネルギー工場”という通称のごとく、ミトコンドリアの主な役割は、“細胞のエネルギー通貨”であるATPの産生である。細胞内に取り入れた糖や脂肪の代謝の結果、ミトコンドリア内膜を挟んだH+の電気化学勾配が形成され、この勾配によって生じるH+駆動力によってATPを合成している。このミトコンドリアのH+勾配を実験的に操作する方法として、これまでは主に薬理学的手法が用いられてきたが、特異性に欠け、細胞に不可逆的なダメージを与えてしまう、といった欠点があった。そこで申請者は、ミトコンドリア内膜に光で駆動するH+ポンプを発現させることで、H+勾配を光によって操作することを着想した。従って、本研究では、生きた哺乳類細胞のミトコンドリアに、光駆動H+ポンプを発現させ、ミトコンドリアのエネルギー代謝を光によって操作することを目的としている。 従来、こうした光操作、いわゆるオプトジェネティクス(光遺伝学)は、専ら神経細胞の興奮あるいは抑制させる手段として用いられてきたが、申請者は、光操作によってミトコンドリアの機能を操作することに挑戦している。オプトジェネティクスをミトコンドリアに応用した例は数少なく、その機能を抑制する、一方向性の制御しか成功していないのが現状である。そこで本研究では、H+ポンプを発現させることで、従来の手法では不可能であった、ミトコンドリア機能の抑制と促進の両方向性の制御を行う。ミトコンドリアは代謝以外にもシグナル情報伝達や細胞死など様々な役割を担っており、その機能異常は神経変性疾患など様々な病態を引き起こす。よって、本手法は、基礎生物学研究のみならず、創薬開発など臨床応用に繋がる研究をも加速するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H+濃度勾配を増幅させるため、微生物型ロドプシンの一種である、光駆動外向きH+ポンプarchaerhodopsin-T (ArchT)をミトコンドリア内膜に発現させた。具体的には、細胞質で翻訳されたArchTタンパク質をミトコンドリア内膜へと輸送し、正しく局在するよう、ArchTのN末端に、のミトコンドリア内膜ターゲティングシグナル配列 (MTS)を加えたプラスミドDNAを設計した。このプラスミド DNAを細胞内に遺伝子導入し、光を照射することで、マトリックスから膜間腔へとH+が汲み出され、ATP合成酵素によるATP産生が促進することが予想される。ミトコンドリアへの局在評価は、蛍光免疫染色によって行った。COS1あるいは細胞にArchTを発現させた実験では、一部の細胞でミトコンドリアマーカーとの共局在が確認できた。ArchTのミトコンドリアへの局在を更に改善するために、プラスミドの設計や染色条件の最適化を行ったが、新型コロナウイルス感染拡大による活動制限により、観察のために必要な共焦点顕微鏡(他研究棟共通機器室あるいは他研究室のものを借用していた)が使用できなくなり、結果が確認出来ずにいる。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染拡大による活動制限により、共焦点顕微鏡の使用が不可となったため、当面光駆動H+ポンプのミトコンドリアへの局在を蛍光免疫染色によって確認することが出来ない。従って、光駆動H+ポンプがミトコンドリア内膜に狙い通り配向し、光照射によって、実際に電気化学的H+濃度勾配が変化し、ATP産生を促進あるいは抑制するかを検証するにあたり、ミトコンドリアのpH、膜電位、ATP濃度の変化を、蛍光タンパク質を用いたイメージングによって測定する。
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