2019 Fiscal Year Annual Research Report
近代朝鮮における出版文化の形成-出版社「新文館」(1908-1922)を中心に
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19J12378
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田中 美佳 九州大学, 人文科学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 朝鮮史 / 出版社 / 新文館 / 崔南善 / 雑誌 / 翻訳 / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近代朝鮮を代表する出版社であった新文館を日朝相互の影響関係のなかで捉え、「一国史」的に分析されてきた近代朝鮮の出版文化史に新たな知見を加えようとするものである。 2019年度は、1910年代における新文館の刊行物に関して、日本の出版社や刊行物との影響関係を考慮しつつ分析し、その実態を解明することを目標に研究を進めた。国内外で広く史料調査を実施したうえで実証的に検証した結果、1910年代に朝鮮で人気を博した「総合教養」雑誌『青春』における各民族や各国の文物の紹介や海外情報といった当時の言葉でいう「世界的知識」の発信は、その大部分が日本書籍の翻訳を通したものであったことが明らかになった。日本の出版物の翻訳を通した「世界的知識」の発信はすでに新文館初の刊行雑誌『少年』でもなされていたが、両誌の目指したコンセプトの違いおよび時代背景が、底本の選択と使い方に反映されているといえる。また翻訳の過程を分析すると、「日本」を「朝鮮」に言い換えるなど、底本の翻訳を工夫することで朝鮮の世界化が試みられていたことが指摘できる。 さらに、これらの刊行物を、先行研究で深く考察されてこなかった「女性」という視点から再考察し、新文館が女性に対してどのような意図を持って刊行物を出していたのかについて、同時期における日本の出版界との関係性にも目を向けつつ検討した。とくに、『少年』廃刊後に刊行された児童雑誌は新たに女性を読者に含めるようになり、主体的に行動する近代的な女性像が描かれているという点が特徴的であるが、その背景には、韓国併合に伴う新文館の路線変更や新文館の設立者である崔南善の女性観の変遷があったといえる。 以上の研究成果については、ベルリンで開催された世界韓国研究コンソーシアム・ワークショップや九州史学会大会等の国内外の学会で報告し、二篇の論文で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
史料調査が順調に進み、新文館の主要雑誌である『青春』に関して、日朝両言語の史料の分析を通し、掲載作品の出典を特定するなど日本の出版界の影響を明らかにすることに成功した。 さらに、『青春』を含めた1910年代の新文館の刊行物について、新たに「女性」という視点からの考察を加え、研究成果を論文で発表することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、1910年代に新文館が多数刊行した単行本および崔南善の出版活動に携わった日本人の事例について分析する。さらに、新文館印刷所についての考察も加える。新文館の刊行物の大部分は1910年代に刊行されたものであり、20年代は印刷所の活動が主であったと思われる。未だ不明点の多い新文館印刷所についての分析を通し、1920年代の新文館の活動実態を明らかにしたい。 以上の作業を進めるにあたって、引き続き国内外で史料調査を実施する。そのうえで、2019年度に収集した史料と合わせて分析し、得られた成果について学会発表、論文投稿を行う。上記の作業と並行して、これまでの研究成果を踏まえ博士論文を執筆する予定である。
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