2019 Fiscal Year Annual Research Report
アルツハイマー病においてAβが凝集性・神経細胞毒性を獲得するメカニズムの解明
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19J12600
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
箱崎 眞結 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | アミロイドβ / アミロイド斑 / タウ蛋白質 / アルツハイマー病 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、アルツハイマー病(AD)発症において、①アミロイドβ(Aβ) が凝集性を獲得しアミロイド斑を形成する過程と、②毒性Aβ 分子種がタウ病理を介して神経細胞死を引き起こす過程に着目した。各過程において鍵分子として働くAβ 分子種の同定と、分子メカニズムの解明、そして標的Aβ 分子を脳内から除去・無毒化する新たなAD予防・治療法の開発を目指して研究を行った。 今年度は、特に①に着目した研究において成果が得られた。当研究室では、昨年度までに、多量のAβ蓄積を有する高齢のアミロイド前駆体蛋白質(APP)トランスジェニック( tg)マウス脳内に、in vivoでAβ蓄積を誘発するseedとして働く可溶な200 kDa以上のAβオリゴマーが存在することを示した。 今年度は、APP tgマウス脳に本seed分子を接種し、時系列的にAβ動態の変化を解析することで、このseed分子がin vivoでAβの凝集核として働き、局所で分泌されたAβモノマーの凝集・蓄積を促す可能性を示した。 次に、ヒトAD脳においても、同様のAβ業種・蓄積を誘発するseed分子が存在するか検証した。まず、AD脳トリス可溶画分をゲルろ過クロマトグラフィーにより分画し、各画分中のAβ濃度をAβ特異的なELISAで測定すると、200 kDa以上の分子量の画分にAβが豊富に含まれていた。この画分を若齢のAPP tgマウス脳海馬に接種すると、特徴的なパターンのAβ蓄積が誘発された。また、AD脳由来のseedがAβ蓄積を誘発する効果は症例によって異なっており、seed分子を構成するAβ40/Aβ42比や脳内アミロイド病理に相関する可能性が示唆された。 以上より、本研究で同定したseed分子は、ADにおけるAβ蓄積の時空間的拡大に重要な役割を果たす分子であると考えられ、AD治療の新規標的となる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、AD発症において、①Aβが凝集性を獲得しアミロイド斑を形成する過程と、②毒性Aβ分子種がタウ病理を介して神経細胞死を引き起こす過程に着目し、各過程で鍵分子として働くAβ分子の同定を目指している。 前半については、多量のAβ蓄積を有するAPP tgマウス脳あるいはAD脳中に、可溶な高分子量Aβ分子が存在し、脳内でAβ蓄積を誘発するseed効果を有することを示した。また、APP tgマウス脳に本seed分子を接種し、時系列的にAβ動態の変化を解析することで、このseed分子がin vivoでAβの凝集核として働き、局所で分泌されたAβモノマーの凝集・蓄積を促す可能性を示した。以上の点で、期待通りの進展がみられた。また、興味深いことに、AD脳由来のseedのAβ蓄積誘発効果には、症例間で差が見られた。現時点では2症例のみの解析であるが、アミロイドアンギオパチーが顕著で、seed分子を構成するAβ40/Aβ42比が比較的高かった。脳内でseed効果を規定する因子を明らかにすることが、今後の課題である。また、APP tgマウスに対し、既存の抗Aβ抗体Xを用いた受動免疫療法を行ったが、本seed分子のAβ蓄積誘発効果を抑制することができなかった、抗体の投与方法の変更や、より特異性の高い抗体の使用が必要と考えられた。 後半については、アデノシン随伴ウイルス(AAV)を用いてタウ微小管結合リピートドメイン(tauRD)を神経細胞特異的に発現させることには成功したが、この系ではAβ蓄積依存的な異常なタウ変化(タウリン酸化や神経現線維変化の形成)を検出することはできなかった。今後、tauRD以外のタウ凝集核を用いることや、Aβのseedを併用することで、Aβ依存的なタウ病理や神経毒性を評価する系の確立ができる可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
①Aβが凝集性を獲得しアミロイド斑を形成するメカニズムの解明については、AD脳由来の、トリス可溶な200 kDa以上のAβ分子を含む画分が、脳内でAβ蓄積を誘発するseedとして働くこと、そのAβ蓄積誘発効果は症例によって異なることを示した。現在は少数例の解析のみであるが、今後は、さらに症例を増やして、AD脳から抽出したseedのマウス脳への接種実験を行い、seed分子の性質と、脳内Aβ蓄積パターンあるいは脳内のAβ40/Aβ42比がどのように関連するか明らかにしたい。またAβ40が、脳内でAβ凝集阻害効果を有するかどうか、Aβ40の免疫除去などで確認したい。また、本seed分子のどのような性質がAβ蓄積誘発に寄与しているか確かめるため、seed分子に対しギ酸処理を行いβ-sheet構造を破壊した場合にseed効果が消失するか検討する実験や、不溶画分に含まれるAβ分子とのseed効果の比較する実験を行う予定である。さらに、このseed分子を標的とてアミロイドβ蓄積を抑制できるか検討するため、特異的に本seed分子を認識する抗体を作成、あるいは既存の抗体から反応性の高い抗体を探索し、その抗体を用いた受動免疫療法を行い、seed誘発性のAβ蓄積を抑制できるか検討したい。 ②毒性Aβ分子種がタウ病理を介して神経細胞死を引き起こすメカニズムの解明に関しては、引き続きAβ蓄積依存的なタウ病理の検出を評価するin vivoの系の作出に取り組む。APP tgマウスに、in vitroで凝集させたリコンビナントタウや、タウtgマウス脳から抽出したタウの接種、あるいはこれらのタウseedとAβ seedを同時に接種することで、内因性タウの病的変化を惹起できるか検討を行う。また、タウseedを接種したマウス脳の固定法や、用いるタウ抗体の検討を行い、病的タウを高感度で検出できるか検討したい。
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Research Products
(1 results)