2019 Fiscal Year Annual Research Report
幼児の自己認知発達における視覚触覚情報の機能の解明
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19J12635
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
新田 博司 九州大学, 人間環境学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 顔処理 / 知覚処理 / 視線運動 / 自己 / 自己顔表象 / 乳幼児 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、本研究課題の下位研究として進めていた「乳児期における自己顔知覚の発達」に関する研究成果をまとめ、現在国際学術誌に投稿中である。自己顔知覚に関する先行研究から、発達初期では乳児は自己顔と他者顔を弁別し他者顔を選好注視するが、一方で1歳半前後の乳児は自他顔を弁別し自己顔への選好を示すことが報告されている。自己鏡映像認知が見られる生後18ヶ月までの自己顔知覚および選好の発達的変化を明らかにするため、生後12ヶ月児を対象に画像合成技術により生成した「自己類似顔」と「自己顔」との弁別から自己顔表象の発達を検討した。乳児は自己顔を鏡などから日々経験しているため、自己顔の表象が発達しているのであれば「自己顔」と「自己類似顔」の違いを検出し弁別すると考えられる。調査では、生後12ヶ月児を対象に(1)自己顔、(2)別の乳児、(3)2つの顔を合成した自己類似顔を画面上に対提示し、各顔への注視時間をアイトラッカーで測定した。また、乳児の視線運動が、自己顔によらず単に人工的に生成された合成顔によって変化するという可能性を排除するため、(1)他者顔と(2)2名の他者の合成顔を対提示する統制実験も行なった。その結果、乳児は合成顔に自己顔を含む場合のみ、自己顔また他者顔と合成顔をそれぞれ弁別し、自己顔、他者顔をそれぞれ選好注視した。しかし、自己顔と他者顔との間には選好が見られなかった。一方、他者顔のみの統制実験では顔刺激間で注視時間に差は見られなかった。本研究により、日々の経験により生後12ヶ月頃には自己顔を表象する能力が発達していることを示すことが示唆された。また、発達初期にみられる他者顔選好が12ヶ月児で見られなかったのは、18ヶ月前後の乳児が自己顔選好を示す知見を踏まえ、自己顔への経験から自己顔への関心がより高くなったため、他者顔と同様の選好を示したと解釈される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度において、(1) 研究成果の査読付き国際学術誌へ投稿および掲載、(2) 本研究課題に関わる複数の研究の遂行という点で上記の評価ができる。(1) 主たる研究課題である乳児期における自己顔表象の発達に関する研究成果を研究論文としてまとめ、現在修正済みの原稿を国際学術誌に再投稿中である。また、乳児期における社会的優位性の表象と空間的位置の表象の連合の発達に関する共同研究においては、乳児の視線運動のコーディングによる分析を行う形で研究に携わり、当該研究の成果は国際学術誌Proceedings of the Royal Society B:Biological Scienceにて出版済みである。(2) 上述の生後12ヶ月児における自己顔知覚の発達に関する研究に加えて、報告者は24ヶ月児を対象に正立方向および倒立方向の自己顔と他者顔を提示することにより、幼児の自己顔処理の特異性を検討した。当該年度で30名ほどの幼児が調査に参加し現在分析を進めている。さらに、12、18、24ヶ月児の3つの年齢群を対象として自己顔と自分の名前の連合についても検討を行った。当該研究では、自分の名前が呼ばれた時の自己顔への処理を検討することで1歳から2歳における自分の名前と顔の連合的な認識の発達を明らかにすることを目指しており、これまでに各年齢群で10名ほどのデータを取得している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題における当初の計画では、3-5歳児を対象に自己顔に関する視覚触覚情報の統合処理が自己顔表象や社会的選好に与える影響を明らかにすることであった。しかし、3歳以前の幼児期における自己認知の研究では、自己鏡映像認知課題を通過した幼児がどのように自己顔を処理するかについては未だ明らかになっていない。また、発達初期より自己の顔と名前の連合について検討された研究はほとんどなく、その連合の発達については不明な部分が多い。これらの課題を検討することは、本研究課題の根幹となるアイディアを科学的に意義のある形で結実させる上でより有効な研究方略であると判断した。したがって、今後の研究の推進方策として、「生後24ヶ月児の自己顔処理の発達 (研究1)」および「自己の顔と名前の連合の発達 (研究2)」についての検討を行う。研究1では、参加児と別の参加児のペア、参加児の母親と別の母親のペアでそれぞれ成立及び倒立方向の顔刺激を作成する。2選択の選好注視法パラダイムを用いて顔刺激に対する注視時間や眼球運動を視線計測装置によって測定する。動画視聴後、鏡を用いて自己鏡映像に対する参加児の反応を観察する。研究2では、12、18、24ヶ月児の3つの年齢群を対象として自己顔と他者顔を対提示する場面で母親が呼びかける名前と顔を一致できるかを母親の呼びかけ後の参加児の視線運動によって検討する。顔刺激を提示する課題の終了後、鏡を用いて自己鏡映像へ参加児の反応を観察する。
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