2019 Fiscal Year Annual Research Report
Dark matter search at TeV energies by next-generation gamma-ray telescopes
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19J12715
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
稲田 知大 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 暗黒物質 / CTA / MAGIC / WIMP / 分割鏡 / 望遠鏡光学系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、TeV質量の暗黒物質に対して感度が高い地上ガンマ線望遠鏡を用いて暗黒物質探索を行うことを目的としている。その目的のために、スペイン・カナリア諸島・ラパルマに建設中の次世代ガンマ線望遠鏡であるチェレンコフ望遠鏡アレイ(CTA)大口径望遠鏡の光学系開発と同観測サイトで稼働中のMAGIC望遠鏡による暗黒物質探索を行った。 CTA 大口径望遠鏡の主鏡は 198 枚の球面分割鏡から構成される放物面鏡である。焦点面で鮮明な像を得るためには、198 枚の球面分割鏡それぞれからの像を一点に集める必要がある。分割鏡の背後には、方向調整を行うためのアクチュエータと呼ばれる伸縮可能なモータが取り付けられている。望遠鏡を明るい星に向け、焦点面中心に像が結ばれるようにアクチュエータで分割鏡方向を調整した。この方向調整を 198 枚の鏡全てに対して行った。結果、事前にシミュレーションで推定したスポットサイズと同等の広がりを持つ、鮮明な像を焦点面で得ることができた。 CTAと同じ観測サイトで稼働中のガンマ線望遠鏡であるMAGIC望遠鏡を用いて、天の川銀河中心における暗黒物質探索を行った。本研究では特に、暗黒物質が対消滅した際に生じる、暗黒物質の質量にピークを持つラインガンマ線の探索を行った。16年稼働しているMAGIC望遠鏡において、天の川銀河中心を用いた暗黒物質探索は初の試みであった。大天頂角観測と呼ばれる観測法を最適化し、特にTeV質量をもつ暗黒物質に対する感度を向上させた。先行研究が示した世界最高感度に匹敵する結果を示し、博士論文にまとめた。 本研究により初めて、北半球の地上ガンマ線望遠鏡による銀河中心を用いた暗黒物質探索の可能性を示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CTA 大口径望遠鏡の主鏡は 198 枚の球面分割鏡から構成される放物面鏡である。主鏡放物面中心には分割鏡 1 枚分 のスペースが開けられている。そこに望遠鏡焦点面で、どのように像を結ぶかをモニタリングするために開発したCCD カメラのインストールを行った。インストール後は、CCD カメラ運用のためのソフトウェア開発を行った。ソフトウェア開発においては、CTA全体のシステムに統合できるようにOPCUAという規格でデバイスと情報伝達ができることを確認した。開発者だけではなく、観測オペレーターが、簡単なコマンド操作のみで使えるように汎用化も行い、定常的な観測へ向けた準備を行なった。 ラパルマで稼働中のMAGIC望遠鏡を用いて、天の川銀河中心を観測し、暗黒物質探索を行なった。MAGIC望遠鏡があるラパルマ観測サイトは北半球に位置するため、天の川銀河中心が観測できる天頂角が60度と比較的大きい。天体を観測する際の天頂角と望遠鏡から引き出せる性能は、密接に関わっている。ガンマ線が大気と相互作用して作る空気シャワー由来の大気チェレンコフ光は地上に広がって到来する(天頂観測の場合は約 120 m 半径の光プールを作る)。天頂角が大きい観測では、ガンマ線が大気に斜めに入射するため、光プールの面積が天頂観測の場合よりも拡大する。この特徴は特に統計数で感度が制限される、より高エネルギー側での感度向上に有利に働く。 天の川銀河中心を観測した約200時間のデータに対して暗黒物質の質量にピークを持つガンマ線ライン放射探索解析を行った結果、有為な信号の超過は見つからなかった。そのため、 95 % Confidence Level で800 GeV から 50 TeV までの質量を持つ暗黒物質の対消滅断面積に対して、2DM->2photon への崩壊分岐比 100 % の仮定の下で上限値をつけた。
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Strategy for Future Research Activity |
CTA大口径望遠鏡初号機はすでに科学観測を開始しており、2019年11月に最も明るいガンマ線天体として知られる、かに星雲の検出に成功した。2020年度はより本格的に他の天体を観測する予定である。そのため、得られた観測結果とシミュレーションでの予想性能を比較し、望遠鏡の基本的性能や系統誤差の理解、キャリブレーションを行う。また、同観測サイトで稼働中のMAGIC望遠鏡と初号機で得られた観測結果を比較し、クロスキャリブレーションを行う。そして、初号機で観測した天体(天の川銀河中心や矮小楕円体銀河)のデータを用いて、 暗黒物質探索を行うための解析ツールを準備し、解析する。 CTA大口径望遠鏡光学系に関しては現状、天頂角が約20度程度と小さい際に成功している分割鏡のアライメント法を全ての天頂角に対してスムーズに行えるようにする。また観測中に、それぞれの分割鏡に搭載されたCMOSカメラを用いて、アライメントを行う、「CMOSモード」と呼ばれる新たな手法を導入する。これは、望遠鏡中心に搭載されたレーザーを焦点面に打ったものを望遠鏡光軸とみなし、分割鏡に搭載されたCMOSカメラが観測中、そのレーザーをモニタリングするというものである。あらかじめ定めた分割鏡の標準方向からのずれが検出された場合は、アクチュエータが自動的に分割鏡方向を調整し、補正する。これらの準備のためにラパルマに滞在し、安定した運用を行うために必要な準備をおこなう。 CTA大口径望遠鏡は最終的に4台建設される予定である。 2-4 号機に使用される分割鏡はすでに製造され、ラパルマ島に輸送されている。これらの測定結果を用いてシミュレーションを行い、2-4号機の分割鏡配置を決定する。
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Research Products
(3 results)