2019 Fiscal Year Annual Research Report
加齢性疾患診断マーカー探索を目的としたタンパク質中アミノ酸残基のキラル分析法開発
Project/Area Number |
19J12809
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
石井 千晴 九州大学, 薬学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 分析化学 / D-アミノ酸残基 / 多次元HPLC / 質量分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、白内障や動脈硬化など加齢性疾患を早期診断するための新しい指標や治療標的として近年注目されているにも関わらず、網羅的かつ精密に分析することが困難であった“タンパク質中における異性化アミノ酸残基”の新規分析法を開発する。本分析法を開発するとともに医療応用を展開することで、加齢性疾患の早期診断法開発・治療法探索の推進が期待できる。 タンパク質中アミノ酸残基を選択的に分析するためには、重塩酸加水分解・質量分析および複数の分離モードを組み合わせた二次元HPLCを統合する方法が有用であると期待された。そこで2019年度は対象アミノ酸残基の網羅性向上と分析法の簡便化をねらい、逆相分離(一次元目LC)、光学分割(二次元目LC)および質量分析装置(MS/MS)をオンラインで接続する網羅的全自動分析装置を開発した。代表的なタンパク質構成アミノ酸の逆相カラムによる相互分離条件、光学分割カラムによる各鏡像異性体の分離条件およびMS/MSによる検出条件を最適化し、対象アミノ酸10種の一斉分析を可能とした。開発した装置を用いて、既にD-セリン残基の存在が報告されているニワトリ卵白アルブミンの分析を行った。その結果、Ser残基のみD体のピークが微量検出され、他のアミノ酸残基のD体は検出されなかったことから、重塩酸加水分解・二次元HPLC-MS/MS分析法がタンパク質中D-アミノ酸残基分析法として実用可能であることが示された。 また、アスパラギン(Asn)残基およびグルタミン(Gln)残基は通常の加水分解ではアスパラギン酸(Asp)残基およびグルタミン酸(Glu)残基と識別が困難であるが、ホフマン転位反応を用いてAsnおよびGln残基をジアミノプロピオン酸(DAPA)およびジアミノ酪酸(DABA)とし、Asp残基、Glu残基との識別定量を可能とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では、様々なタンパク質構成アミノ酸を対象とする二次元キラルHPLC-MS/MS分析法の開発に成功し、実際のタンパク質試料の分析に適用可能であることが示された。また、通常の酸加水分解では分析が困難なアミノ酸残基についても、適切な前処理法検討を進めており、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミンの識別定量法の開発に成功している。本年度の研究成果は第一著者としての論文・総説3報、国際学会発表3件、国内学会発表3件(共著では国際学会発表4件、国内学会発表5件)にまとめられており、当初の計画以上に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度までは代表的なタンパク質構成アミノ酸を対象として、逆相分離、光学分割条件および検出条件を精査し、全自動二次元キラルHPLC-MS/MSシステムの開発を行った。モデルタンパク質の分析により重塩酸加水分解・二次元HPLC-MS/MSシステムの有用性を評価した結果、タンパク質中の微量D-アミノ酸残基の解析が可能であった。従って2020年度は、本分析法を用いて実試料中における様々なタンパク質についてD-アミノ酸残基の解析を可能とする。 本分析法を用いて組織中タンパク質を分析するためには、生体内に存在する遊離アミノ酸やその他の成分から標的タンパク質を精製する必要がある。従ってタンパク質精製方法を検討し、実際に加齢モデルマウスやアミノ酸代謝異常マウスの血管・皮膚中に蓄積した劣化・病変タンパク質を精製した後、D-アミノ酸残基含量を解析する。九州大学病院との共同研究により収集するヒト臨床検体においても同様にD-アミノ酸残基含量解析を行い、白内障をはじめとする様々な加齢性疾患や、動脈硬化のような加齢に伴う症状とタンパク質中D-アミノ酸残基との関連解析を試みる。 Asn、Gln残基は酸加水分解によりAsp、Glu残基として検出されるため、Asn/Asp残基およびGln/Glu残基を識別分析するための前処理法確立が必須である。2019年度はAsn/Asp、Gln/Gluの双方ともホフマン転位反応を利用した前処理法により識別分析が可能であるという結果を得た。2020年度はホフマン転位・重塩酸加水分解反応および二次元HPLC-MS/MSシステムを組み合わせてAsn/Asp/Gln/Gluの一斉分析法を構築し、様々な試料の測定を行う。また、Trp残基とCys残基は酸加水分解では回収率が極めて低く分析が困難であるため、2020年度は引き続き加水分解条件の検討および適切な前処理法の検討を行う。
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