2019 Fiscal Year Annual Research Report
The study about controling rumen epithelial barrier function to prevent the disruption of rumen epithelium
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19J12823
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
西原 昂来 東北大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ルーメン / 亜急性ルーメンアシドーシス / Toll様受容体5 / インスリン様成長因子結合蛋白質 / ウシ |
Outline of Annual Research Achievements |
濃厚飼料といった易発酵性飼料の多給は、亜急性ルーメンアシドーシス(SARA)といった生産病を招くことがある。これまでの研究より、SARA誘導時のルーメンにおいてTLR5(Toll様受容体 5)とIGFBP(インスリン様成長因子結合蛋白質)がルーメンを修復するように機能したり、ルーメン上皮を保護するように機能すると推定されたため、今年度は、以下1、2を実施した。 1、ウシルーメン上皮細胞におけるTLR5の役割の解析:TLR5はルーメン上皮の基底層および有棘層に局在していた。ルーメン上皮のタイトジャンクションは、顆粒層において最も強固であることから、TLR5は顆粒層のタイトジャンクションが崩壊するのに備えていると示唆された。ルーメン上皮のTLR5にリガンドが結合すると、ルーメン上皮のIL-1βの発現が高くなった。IL-1βは、CXCL8といった炎症性サイトカインや、抗菌ペプチドの発現を亢進した。これより、TLR5がリガンドと結合すると、IL-1βの自己/傍分泌が促進され、好中球の遊走を促進するCXCL8や抗菌ペプチドの産生が誘導されることが示唆された。 2、ウシルーメン上皮細胞におけるIGFBPの役割の解析:培養ルーメン上皮細胞においてIGFBP2と6の発現は短鎖脂肪酸により低くなった。IGFBPはIGF-Iにより促進されるルーメン上皮細胞の増殖を抑制した。以上より、ウシがSARAを罹患した際には、短鎖脂肪酸濃度の上昇がIGFBPの発現を抑制し、IGF-I依存的な細胞増殖が促進されることで、ルーメン上皮細胞が修復されると考えられる。 以上の結果から、ウシのルーメン上皮細胞のバリア機能が崩壊すると、IGFBPやTLR5の発現制御により、細胞増殖が促進され、微生物侵入が阻止されることが示唆された。これらの機構が、上皮の修復・保護を担うと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画を、1、ルーメン上皮バリア崩壊促進因子の特定とその機序の解明、と2、ルーメン上皮バリア機能を向上・維持する因子の探索、と設定した。 1、ルーメン上皮バリア崩壊促進因子の特定とその機序の解明:当初の予定では、組織培養により解析する予定だった。しかし、短鎖脂肪酸添加により上皮バリア機能崩壊を持続するのに限度があり、適切なリガンド刺激が行われなかった。そのため、培養細胞での解析に変更した。まず、目的のために必要なウシルーメン上皮細胞の初代培養系を確立することができた。この培養系を用いて、上皮バリアを崩壊させる候補因子(Toll様受容体5(TLR5)、インターロイキン‐1β(IL-1β)、CXCモチーフケモカイン8(CXCL8))を添加し、バリア機能への影響(添加による炎症性サイトカイン発現変動や細胞増殖速度の変化)を解析できた。また、これらの発現調節因子についても解析を行ったが、本年度ではTLR5の発現調節因子を特定することができなかった。 2、ルーメン上皮バリア機能を向上・維持する因子の探索:1と同様に組織培養により検証する予定だったが、ウシルーメン上皮細胞の初代培養系により候補因子の探索を行った。当初から注目していた、インスリン様成長因子結合蛋白質(IGFBP)のバリア機能向上への影響について解析できた。また、分子機構についても解析し、同定することが出来た。また、IGFBPの発現を調節する因子についても検討し、その因子を解明することができた。 全体として本年度の課題は、1および2ともに予定通りに進行した。これらの計画を進める上で、予定していた実験系が上手く機能しなかったが、代替の実験系を立てたことで、新たな発見があった。来年度の研究につながる知見が得られたため、概ね期待通りに研究が進展した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度では、TLR5やIGFBPがルーメン上皮細胞バリア機能の調節因子であることが明らかになった。また、IGFBPの発現調節におけるルーメン内代謝産物の影響も明らかになった。一方で、TLR5はルーメン内に存在する代謝産物には発現調節を受けておらず、他の因子がTLR5の発現を調節していると考えられた。また、IGFBPの発現を調節する他の因子が存在する可能性もある。従って、生体内でTLR5とIGFBPの発現を調節する因子を同定する。 1、ルーメン上皮細胞に接着する微生物とルーメン上皮TLR5とIGFBP発現量の解析:微生物は腸管の上皮細胞の免疫に干渉するということが分かってきた。ウシよりルーメン絨毛サンプルを採材し、ルーメン上皮に接着する微生物叢の解析と、ルーメン組織のTLR5とIGFBPの発現量を解析を行う。これらの解析結果より、TLR5とIGFBPの発現量と相関する微生物を同定し、その機能を解析することで、TLR5とIGFBPの発現を調節する因子を推定する。 2、ルーメン内代謝産物とルーメン上皮TLR5とIGFBP発現量の解析:本年度では、短鎖脂肪酸やケトン体、乳酸といったルーメン内代謝産物のTLR5やIGFBP発現への影響を検討したが、その他の代謝産物の影響は検討されなかった。従って、その他の代謝産物の影響を検討する。1と同様のウシを供試し、ルーメン絨毛を採材する際に、ルーメン内容物の採材も行い、内容物中の代謝産物を解析する。TLR5とIGFBPの発現量と相関する代謝産物を同定し、同定した代謝産物を培養ルーメン上皮細胞に添加して、実際にTLR5とIGFBPの発現に影響があるかを解析する。
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