2019 Fiscal Year Annual Research Report
近親交配回避と分散距離の性差の因果関係を問いなおす
Project/Area Number |
19J12833
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
澤田 明 北海道大学, 理学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 近親交配 / 配偶者選択 / 血縁 / 分散 / 因果関係 / リュウキュウコノハズク / 島 / データロガー |
Outline of Annual Research Achievements |
配偶者を選ぶ際に近親交配を避ける例は知られるが、多くの場合その仕組みは解明されていない。雌雄が異なる距離を分散することで、近親者同士の出会いが妨げられているという仮説があるが、これとは逆に、近親者を避けながら分散経路を選択することで雌雄が異なる距離を分散しているという可能性もある。本研究の目的は野外において分散距離の性差と近親交配回避の因果関係を明らかにすることである。この目的達成のために野外個体群において分散行動の追跡と個体間の血縁関係の解析を行う。 2019年2月から7月にかけてリュウキュウコノハズクの沖縄県南大東島亜種ダイトウコノハズクの個体群の繁殖調査を行い、巣立ち直前のヒナ26羽にGPSデータロガーを装着した。データロガーは装着日から1年間、毎日深夜0時に測位するようにプログラムした。この調査と並行して、夜間に島内を踏査することで、島内の全個体の縄張りの位置情報を地図上に記録した。可能なかぎり多くの個体を捕獲および採血した。これらのデータをそろえたうえで、ロガー装着個体を翌年の調査で再捕獲し、ロガーを回収することで、それらの個体が分散過程で出会った他個体との血縁関係を明らかにできるという計画である。 2019年8月以降は、分散経路のデータと個体間血縁度のデータから、分散進路選択に個体間の血縁関係が関与しているかどうかを検討するための階層ベイズモデルの構築を行った。予備調査としてラジオテレメトリーを用いて取得した2018年の巣立ちヒナの分散追跡データを、このモデルで解析した。モデルの当てはめにはRとStanを用いた。その結果、分散者は自身の性別に関係なく非血縁者のいる方向に分散進路を選択している可能性が示唆された。GPSデータロガーの追跡データはラジオテレメトリーの追跡データよりも誤差が小さく、定位回数も多いので、GPSデータロガーの回収データの解析結果が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、ヒナへのGPSデータロガー装着が主たる調査内容であり、これが滞りなく実施できた点で順調に進展している。繁殖調査では、77巣から繁殖に関するデータを取得することができた。捕獲調査では、のべ310個体から血液サンプルを採取することができた。本研究は2002年より続く亜種ダイトウコノハズク個体群の長期研究の一環にもなっているが、これらの繁殖記録巣数や年間捕獲数は過去最大である。これらの基礎データは分散している個体と分散経路で出会う個体の関係を解析するうえで欠かせない。したがって、本研究は必要なデータのサンプリングについても順調に行なわれている。こうして得られた血液サンプルは、DNA分析とその結果をもとにした個体間の血縁度の推定に利用される。当初の予定では2019年度内にDNA分析を完了する計画であったが、機器の不調により実施が遅れた。機器はすでに修理され、DNA分析は2020年度にも行うことができる内容であるため、この遅れが研究課題遂行に支障をきたすことはない。以上の理由から総合的に本課題はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度の研究では、GPSデータロガーの回収を行う。2019年度と同様に南大東島での野外調査を行う。縄張りの調査や繁殖調査を行いながらロガー装着個体を捜索し、発見次第捕獲してロガーを回収する。巣立ち後の生存率や個体の発見率を考慮すると5個体からのロガー回収が期待される。これにより詳細な個体の分散経路データが得られる。また、2019年度内に完了できなかったDNA分析を行う。具体的には2019年度の野外調査で集めた血液サンプルから抽出したDNAをもとに、個体のマイクロサテライト遺伝子型を決定する。そしてその遺伝子型をもとに、個体間の血縁度データを得る。GPSデータロガーによる詳細な個体の分散経路データと個体間の血縁度データがそろう。それらのデータを2019年度の研究で構築した階層ベイズモデルで解析し、分散進路選択に対する血縁関係の関与を検討していく。
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