2019 Fiscal Year Annual Research Report
数値計算・原子核実験・天文観測で探るX線バーストの物理
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19J12892
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森 寛治 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | X線バースト / 初代星 / CNOサイクル / 元素合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、X線バーストの物理を数値解析を用いて明らかにすることである。当初の研究計画では独自の流体コードを開発する予定であったが、オープンソースのコードを用いて研究に要する時間を短縮することとした。その代わりとして、コードに入力する原子核物理のデータを独自のものにし、基礎物理的な観点から新規な研究を目指すこととした。 X線バーストでは、中性子星に降着する水素がhot-CNOサイクルによって燃焼し、その後陽子を次々に捕獲して陽子過剰な重元素が合成されていく。同様の過程は初代星(種族III星)でも起こることが近年指摘されている。初代星は極端な低金属量によって高温に達するので、hot-CNOサイクルからのブレイクアウトが発生し、微量のカルシウムが水素燃焼中に合成される。一方、2014年に発見されたSMSS J031300.36-670839.3という超金属欠乏星では鉄が観測限界以下しか存在せず、初代星の死によって放出されたガスから形成された第2世代の星である可能性がある。この星の大気からはカルシウムが検出されており、初代星における特異なカルシウム合成過程を詳細に調べ、超金属欠乏星の観測結果と比較することが急務となっていた。そこで報告者は研究計画を一部変更し、初代星の進化と元素合成を恒星進化コードを用いて詳しく調べた。その結果、SMSS J031300.36-670839.3のカルシウム量が、初代星の元素合成の計算とコンシステントであることを突き止めた。また、この特異な元素合成過程が基礎物理定数の時間変化に対するプローブとして有効であることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的はX線バーストの物理を数値解析を用いて明らかにすることであったが、同様の元素合成過程が発生する初代星を優先して調べることにした。報告者は恒星進化コードMESA(Modules for Experiments in Stellar Astrophysics)を用いて初代星の元素合成を詳細に計算し、超金属欠乏星の観測と比較した。その結果、初代星のカルシウム合成は観測されたカルシウム量と矛盾しないことが明らかになった。報告者はこの結果をまとめた原著論文を現在準備中である。 また、このカルシウム合成過程は温度に敏感に依存する。大質量初代星内部の温度はトリプルアルファ(3α)反応率によって変化するため、もし宇宙初期の3α反応率の値が現在のものと異なった場合、カルシウムの合成量に影響を与えるはずである。そこで報告者は、基礎物理定数の時間変化を探るツールとして初代星の元素合成に着目し、詳しい計算を行った。その結果、もし初期宇宙の核力どうしの相互作用の大きさが現在のものと異なった場合、超金属欠乏星の元素組成に対して観測可能な影響が発生する可能性を指摘した。この結果をまとめた論文はすでに学術誌より出版済みである。 このような新規性のある結果を得ているため、現在のところ、本研究課題はおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は恒星進化コードを用いてX線バーストについて研究を進める。天体における元素合成過程はプラズマ中で起こる。プラズマ中では陽イオンの周囲に電子が集まり、実効的に陽イオンの電荷が小さくなる電子遮蔽が発生し、元素合成に影響を及ぼす。ところが、弱い相互作用による反応(ベータ崩壊、電子捕獲など)に対する電子遮蔽効果はこれまでの研究で考慮されてこなかった。そこで、本研究ではこの効果に注目して研究を進める。この効果は原理的には他の天体(超新星爆発、恒星進化など)においても重要となる可能性があるため、恒星進化コードを用いて網羅的に調べていく。 また、アクシオンやニュートリノの磁気モーメントといった、標準模型を超える物理は、X線バーストやその他の天体に対して影響を及ぼす可能性がある。そこで、恒星進化コードにこれらの効果を組み込み、観測可能な影響を網羅的に調べていく。
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Research Products
(10 results)