2019 Fiscal Year Annual Research Report
硫化スピネル化合物をベースにした高性能な熱電変換物質の創製
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19J12916
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
橋國 克明 九州大学, 総合理工学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 熱電変換 / 熱電物性 / 硫化物 / スピネル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,Cu2Ti4S8をベースにしたスピネルの熱電性能向上を目的として,格子熱伝導率を低減させるための1) SのSe置換による点欠陥の導入,および電気的特性を向上させるための2) Cuサイト欠損による電子キャリア濃度nの低減と3) TiのTr = Co, Sc置換を実施した。以下に各テーマの実績の概要を記す。 1) Cu2Ti4S8のTiをCoで置換したCu2CoTi3S8に対して,SをSeで25%程度置換できることを確認した。しかしながら,試料中でのSeとCoの組成のばらつきが大きかった。ここで,SeとCoの組成には正の相関があった。結果として,Se置換による格子熱伝導率低減の兆候が確認されたものの,出力因子の低下と電子熱伝導率の増加によりZTは低下した。 2) Cu2Ti4S8では,電子キャリアの供給源であるCuを欠損させればnを低減できる。本研究では,TiをFeで置換したCu2FeTi3S8においても,Cuを25%欠損させられることを確認した。Cu欠損試料は熱的に不安定であったが,硫黄蒸気中で加熱することで,分解を防ぎながら焼結できた。結果として,Cuの欠損によりnは低下し,ゼーベック係数は増大した。 3) TiをCoとScで置換したCu2(Co/Sc)yTi4-yS8 (1 ≦ y ≦ 2)を合成した。両方の置換系でyの増大に伴いゼーベック係数と電気抵抗率は増大した。これは期待通りnが低減したことを示す。結果として,673 KにおけるZTはCo置換系では0.2, Sc置換系では0.1と無置換系よりも大きかった。ここで,Co置換系のZTがSc置換系に比べて大きいのは,ゼーベック係数が大きいためであった。この結果はCo置換が性能向上に有効であることを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はCu2Ti4S8をベースにしたスピネルの熱電性能の向上を図った。その中で,SをSeで置換すれば格子熱伝導率を低減できる可能性が示唆された。さらに,Co置換とSc置換により電子キャリア濃度を下げられること,Co置換系ではゼーベック係数が大幅に高まることを確認した。これらの結果はCu2Ti4S8スピネルの性能向上に資する重要な知見である。また,試料が熱的に不安定であっても,硫黄蒸気中であれば試料の分解を防ぎながら焼結できることも判った。このような進捗状況からおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究により,TiサイトのCo/Sc置換により熱電性能が向上すること,特にCo置換によりゼーベック係数が大幅に増えることが判った。そこで今後は,Co/Scの置換により電子構造がどのように変化するのか,またCo置換による変化がなぜゼーベック係数を高めるのかを明らかにする。具体的には,実験により電子キャリア濃度とゼーベック係数の関係を調べて,その関係からキャリアの有効質量を見積もる。他方,第一原理計算からCoとSc置換の電子状態密度等の情報を得る。また,ここで得られる知見を基にして,他の硫化スピネルを対象として,熱電物質候補の探索を行う。
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