2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19J13045
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
榊原 教貴 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | プラズマ / 氷 / 太陽系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、氷点下環境に特有な反応担体としての氷に着目し、極低温領域にガス温度を制御可能なクライオプラズマによる低温での高反応性を重畳させることで、特異的低温反応場としての「氷共存型クライオプラズマ」の創製および応用を目指している。前年度までで既に、温度制御性の良い氷共存型クライオプラズマの生成を実証し、工学的応用の観点から凍結現象をプラズマ誘起液相反応と融合した新規薄膜作製手法の開発に成功していた。本年度は特に、極低温宇宙環境に存在する氷天体における物質生成過程の模擬を行い、自然科学の観点から氷共存型クライオプラズマの応用を検討した。具体的には、極低温環境にガス温度を制御しながらの氷へのクライオプラズマ照射を行うことで、既往の研究よりも温度環境を模擬しながらの太陽系氷天体環境の模擬実験を行った。 その結果、窒素活性種を含むクライオプラズマを照射した場合に、幾つかの外太陽系氷天体で見られるような赤色の呈色が確認された。さらに、プラズマ照射終了後に得られた赤色物質を昇温すると、120 Kを超えると徐々に薄くなり150 Kで消失するという、これまでに報告例のない極低温環境での温度依存性を示した。すなわち、赤色は極低温環境においてのみ安定な窒素含有の有機化合物に由来することが示唆され、昇温により脱着もしくは無色な物質へと変化することで赤色が消失するものと考えられる。そして、本実験で得られた赤色が消失する温度が外太陽系で赤色氷天体が見られなくなる近日点距離で想定される天体の表面温度(120K-150 K)と良い一致を示すことから、氷天体が太陽系の外側から内側に移動するにつれて温度上昇に伴い極低温環境においてもその赤色を失い得る、という新たな可能性が示唆された。 以上により、本年度までで氷共存型クライオプラズマの創製およびその応用可能性を自然科学および工学の両面から実証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、氷共存型クライオプラズマの創製および応用を目標としている。 申請者は本年度、前年度までに確立してきた氷共存型クライオプラズマを用いて、外太陽系氷天体という極低温宇宙環境における物質生成過程の理解に向けた模擬実験を行った。プラズマ中のガス温度を連続的に制御することで既往の研究よりも温度環境を再現し、申請者らの注意深い実験を通じて、極低温環境のみにおいて安定に存在する赤色の呈色が発見された。昇温による赤色の消失温度域は120K-150 Kであったが、これは外太陽系おいて赤色を呈する氷天体が見られなくなる太陽に最も近い近日点距離において想定される天体表面温度と良い一致を示した。本結果は、未だ十分に解明されていない外太陽系氷天体に見られる色分布の由来として新たな可能性を示唆する結果であり、太陽系の形成や進化のメカニズム解明への新たな糸口として期待される。本成果は宇宙物理学の速報誌(ApJL)へ掲載され、インパクトのある研究成果として大学からのプレスリリースを通じて広く公表された。 以上より、当初の計画以上に進展したと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までで氷共存型クライオプラズマの創製およびその応用可能性を自然科学および工学の両面から実証した。しかしながら、クライオプラズマと氷の相互作用のメカニズムおよび界面での反応過程に関しては未解明のままである。来年度は、レーザー分光分析手法を駆使することで、プラズマ/氷界面ならではの特性位の解明に取り組んでいく予定である。すでに本年度の後半にレーザー分光分析装置の構築を進めており、計測系構築の大部分が完了した。
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Research Products
(8 results)