2019 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of male-killing effectors and its evolution in Wolbachia - Homona magnanima
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19J13123
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
新井 大 東京農工大学, 大学院連合農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | オス殺し / 共生微生物 / Wolbachia / 昆虫 |
Outline of Annual Research Achievements |
共生細菌Wolbachiaが茶樹害虫チャハマキのオスを殺す機構を解明する。安定した食糧の確保や感染症のまん延を防ぐため、「微生物」を用いた害虫のコントロールが注目されている。Wolbachiaは昆虫の繁殖を操作し、オスのみを致死させる『オス殺し』を引き起こす。しかしWolbachiaがオスを殺す機構:オス殺し遺伝子の存在、オス殺し分子メカニズム、オス殺し形質の進化経緯は明らかでない。申請者はいままでの研究から、新たにチョウ目チャハマキと複数のWolbachia株を用いたオス殺し研究系を樹立した。本研究はチャハマキとWolbachiaをベースに、 Wolbachia株間の比較ゲノム解析、チャハマキとWolbachia双方の遺伝子発現解析およびチャハマキでのWolbachia遺伝子の機能解析からWolbachiaがもつオス殺し候補遺伝子とその制御機構を探索し、近縁ハマキガ科昆虫-Wolbachia株間での表現型と遺伝子多型からオス殺し形質の進化を探索する。2019年度はWolbachiaオス殺し遺伝子および密度に依存したオス殺し表現型制御機構を探索した。オス殺しWolbachia wHm-t株のドラフトゲノムを作成し、wHm-t株がコードする遺伝子の機能を推定した。さらにオス殺しwHm-t株に近縁なwHm-c株の全ゲノムシーケンスをおこない、wHm-tドラフトゲノムと比較した。一連の配列解析から、wHm-t株とwHm-c株の差は両株間の大規模な配列構造変異によることが明らかになった。次に、チャハマキの胚発生にともなうwHm-t株の遺伝子発現変化をRNA-seqで調べた。その結果、wHm-tの一部遺伝子が胚発生にともない発現量が変化することが明らかになった。wHm-t株が感染することによりチャハマキの各種遺伝子発現パターンおよびメタボロームが変化することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的は共生細菌Wolbachiaによる茶樹害虫チャハマキのオスを殺すメカニズムを解明することである。当初の計画として、チャハマキに感染するWolbachia株のゲノム解析および遺伝子発現・機能解析を予定していた。2019年度は、Wolbachia株間の比較ゲノム解析および遺伝子発現定量解析を実施することでWolbachiaゲノム間の構造変異を明らかにするとともにオス殺し候補遺伝子を探索することができた。あわせてWolbachiaがチャハマキに引き起こす影響を、遺伝子・代謝物レベルでも調査することができた。さらに日本国内各地およびアジア地域におけるフィールド調査から、Wolbachiaの感染動態と表現型調査も進展している。あわせて、研究で得られた成果を学術論文および国内学会にて報告することもできた。今後も引き続き研究を行い、日本及び台湾でのWolbachiaゲノムとオス殺し表現型の関係を調べるとともに、宿主に生じる影響を詳細に調査してゆく予定である。このように、2019年度は当初の期待通り研究計画が進展したと考えられる。2020年度はさらに研究が進展することを期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の研究成果をもとに、Wolbachiaオス殺し候補遺伝子(エフェクター)の推定、進化解析、機能解析を中心的に試みる。まず前年度に引き続きチャハマキおよび近縁昆虫種の野外採集調査を実施する。台湾や日本各地から得られたチャハマキおよび近縁種由来のwHm-cおよび-t近縁株のゲノム解析を実施する。これにより得られたオス殺しおよび非オス殺し近縁Wolbachia株間の比較ゲノム解析を実施し、オス殺しおよび感染密度決定に関わる遺伝領域を特定する。候補となるエフェクター遺伝子をチャハマキあるいは他種昆虫・真核生物に発現させる方法の確立を試みる。前年度のRNA-seqデータからwHm-t株の感染が宿主の遺伝子発現にあたえる影響を推定する。そしてwHm-t近縁株間でエフェクター遺伝子の多型を調べ、オス殺し形質との進化関係を明らかにする。5月現在、コロナウイルス流行の影響により、今後の研究状況は不透明ではあるが、すでに確立した方法をもとに確実に実験を進めてゆく所存である。最終年度として成果をまとめ上げられるよう善処する。
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